「みんなで幸せ研」対談 第6回

[mokuzi]

<湯川 高康さん プロフィール>
「みんなで幸せでい続ける経営研究会」創設時メンバーのお一人
ヤフー株式会社 執行役員
コーポレートグループピープル・デベロップメント統括本部長
2003年 ヤフー入社。採用、労務、給与厚生リーダーを担当。
2012年、経営体制変更時にヤフーバリューを軸とした評価と報酬制度を導入。
20144月よりピープル・デベロップメント戦略本部長として、人事とオフィス部門を管掌。
2016年、本社移転に伴い、働き方改革を推進。
20184月より現職。オフィスや健康管理を含む人事全般を統括。
YG健康保険組合理事長
趣味は、登山、トレイルランニング、風景写真撮影など、アウトドア系全般

<島村 仗志さん プロフィール>
「みんなで幸せでい続ける経営研究会」共同代表(運営担当)
株式会社ウエイクアップ 代表取締社長役(当時)
ウエイクアップは、リーダーシップ、コーチング、組織開発の世界的な3つのブランドの日本パートナーであり、人や組織の可能性を最大限に引き出すことに力を注いでいる。
著書:「コーチングのプロが教えるリーダーの対話力 ベストアンサー」など

目次

 研究会に参加したきっかけ

島村 仗志さん(以下、敬称略) : ヤフー様が、この「みんなで幸せ研」に入会なさったきっかけは、どんなことでしたか?

湯川 高康さん(以下、敬称略): もともとは、宮坂*が興味をもち、参加させてもらうことにしました。研究会を作る、という0期のお話をいただいたのが、2016年の春くらいでしたね。
*宮坂 学さん : 2012年より代表取締役社長 20186月 取締役会長就任

20164月に、ヤフーは創立20周年を迎えました。そして「これからさらに100年続く企業になるためには、どうしたらいいのか?」を、ちょうどみんなで話していたところだったのです。

最初の20年は、ユーザーもインターネットというものに慣れていない、市場として未成熟な時期で、ヤフーもひたすら前を見て走り、成長してくることができました。
そして20年が経ち、市場も成熟し、「これからも同じ戦い方でいいのか?100年続く企業になるにはどうすればいいのか?」と考えたときに、その答えの方向の1つとして、社員にどう向き合い、「社員がどう幸せであるべきか」というところに議論が行きつきました。

でも、「社員の幸せってどうすれば測れるんだっけ?」という、もやもやをずっと抱えており、そのときに、この会をご紹介いただいて、少しでもそのヒントがあればと思い、「参加してみよう!」となったのです。

島村: 見事なまでに、タイミングが一致した、ということなのですね。

湯川: はい、そうですね。会社なので、当然利益は出していかないといけなし、伸ばしていかないといけないですが、でもそれだけだと、やっぱりどこかで疲弊してしまうので、ちゃんと社員にも向き合わないといけない。会社を動かしているのは「人」なので、社員の成長がとても大事になります。

会社四季報などを見るときには「利益」に目がいきがちですが、そこに「働く社員の幸せ指数」が載っているのがスタンダードとなり、投資家や株主も、それを見て会社のコンディションや将来性を測る、というようになればいいな、と思っています。

島村: 夢のような話にも聞こえますが、私も、そこは強力に意図しています。
実は、2年前に孫を授かりまして、息子たちのときには、「幸せ指数」は間に合わなかったけれど、孫が就活するときまでには、それが日本の、いや日本のみならず、グローバルのビジネス・スタンダードになっていればいいな、と心から願っています(笑)。

 研究会に参加して得たものとは

島村: ご入会いただいて、そろそろ2年が経とうとしていますが、これまでご参加いただいてのご感想は、いかがですか?

湯川: 具体的に、社内全体に展開できているかというと、まだそこまでには至っていないですが、部門内での理解、というのは、この2年間でかなり深まってきました。

正直、この会に参加するまでは、社員の幸せって、そんなに正面から考えることはなかったですね。やはり、「どうやって会社が成長するか」ということが一番でしたし、ちょっと人事っぽくないのですが、社員は給料もらって働いているわけですから「そもそも、会社に育成制度は必要か?」と考えてみたこともあったり(笑)。自己投資して学んで、プロの社会人として働いて、給料をもらう、という関係性であるべきじゃないか、と。

ただ、考えてみたら、プロ野球選手にもコーチがいますし、それと同じように考えると、社員のパフォーマンスを最大限引き出すためには会社にも育成制度は要るよな、と思っています。そして、それと関連して、会社として社員の幸せにどう向き合うか、ということも考えはじめると、その人の人生にさらに近寄っていくことになり、その人にとっての「働く時間」って何だろう、と思うようになりました。

働く時間が多くを占めているかもしれませんが、プライベートの時間、ご家族との時間、それから、趣味の時間など、これらのバランスがトータルでちゃんととれていることが、その社員にとっての幸せのコアになるでしょうし、最高のパフォーマンスを出しやすくなるだろうな、と思っています。

そう考えると、結果として、会社の成長のためには、社員の成長とか、幸せに対してどう向き合うか、というところも考えていかないと、会社の持続的な成長はできない。会社の成長だけを考えてしまうと、短期的にはなんとかなっても絶対に長続きしませんし、ブラック企業のようなことがおきてしまうと思うのです。会社の成長のために社員が犠牲になるようなことがあってはいけません。

ヤフーは、これまでの20年数年間成長してきましたし、これからさらに成長していくためにも、やはり、社員の幸せ、ということに向き合っていかなければいけないな、ということを、自分自身が、この会を通して、学ばせてもらっています。

「みんなで幸せ研」にはいろんなゲストスピーカーもいらっしゃいますが、実践されている方々のお話は、やはりぐっとくるものがあって、そこからの学びを自分がヤフーという会社のなかで、どう展開していけるかを考えるのが、これからの私の役割だと思っています。

 「社員の幸せ」について、会社で語るということ

島村: 他の会員企業様からも伺うことですが、利益を出すことと社員の幸せという関係について、頭では、「幸せな方が、業績は上がりそうだ」ということはわかっていながら、短期的に、「今、この数字が欲しい」というときには、つい社員の幸せと利益を反比例の関係においてしまうという、「これまでの物語」があるように思います。

その意味では、御社は、かなり早くから、そうではないところにシフトする、舵を切っておられるように思いますが、実際のところ、社内では、葛藤とか、反論は、おありだったのですか?

湯川: その意味では、宮坂の影響は大きいと思います。彼自身、入社も早い初期メンバーなので、自分でも言っていますが、相当なハードワーカーで、連日会社に泊まり込みも当たり前、という仕事スタイルで来た人です。

ただ、それと同じ働き方を、社員に課してはいかん、というところから、まずは、健康が大事だよね、と。そして、社員の幸せにどう向き合っていくか。世の中がどんどん成熟していく中で、20年、30年前と同じ働き方をしているというのは、進歩していない証拠だ、とも言っています。

育児や介護をする社員を対象とした「週休3日」や、勤続10年以上の社員を対象に、23カ月の長期休暇が取れる「サバティカル休暇」などを打ち出したのも、その思いからですね。宮坂の嗅覚というか「先を見る目」はすごくて、こちらも相当アンテナを張っていないと、どんどん先を越されてしまうので、我々も人事のプロとして、「その先」を提案できるようにしていけるようにやらにゃいかん、と思っています。

その意味では、トップのコミット、意思があるので、恵まれている環境です。

島村: こういう、企業としての大方針を打ち出すときに、トップとしてのコミットメントは、本当に大きいですよね。

湯川: そう思いますね。宮坂自身が当時CCO Chief Conditioning Officer)になり、トップ自ら社員のコンディション、健康、幸せに向き合うという役割を担っていました。

実は最初、宮坂はCHOにしたいと言っていたのです。Chief Happiness Officer ですね。ところが、私たちの方が、まだ「幸せ」という言葉に慣れていなくて、「幸せって、ちょっと宗教っぽくないですか?」ってこちらが言って・・・。

宮坂は「CHOでいいんだ」と言ってたのですが、最終的にはCCOになりました。まあ、Conditioning というのも、世の中にはなかなかないので、これはこれでよかったのですが(笑)

島村: 実は、幸せ研発足当時、「各社様に、当たり前のように、CHOがいる」ということを研究会の目指すものの1つとしよう、と話していたのですが、すでに御社内では、そういうことがあったのですね。

湯川: 今はもう、社内で「幸せ」と言っても、何の抵抗感もありません。

島村: その、湯川さんの心の変遷を伺ってみたいのですが、その当時は「幸せ」という言葉に抵抗があったのが、今はなくなっている、というのは、どんなプロセス、あるいはきっかけがあったのですか?

湯川: ちょうど、あの頃から、世の中でも「働き方改革」というのが叫ばれるようになり、「社員の幸せ」というような報道も増えてきましたし、社内的にも、「社員の幸せに向き合いますよ」というメッセージングをしても、そんなに違和感なく受け止められやすい環境になったと思います。

安倍政権が、「働き方改革をやっていく」と宣言したのと、うちが「週休3日をやる」といったのが同じタイミングだったのです。別に意図したわけではなく、偶然なのですが、すごくタイムリーだったので、メディアにもワッと取り上げられました。

島村: 宮坂さんの、その嗅覚というか、タイミングをとらえるセンスは、素晴らしいですね。

湯川: そのあたりから、社内でも少しずつ、社員の幸せ、ということを発信していって、「過重労働とハラスメントは絶対認めません。なぜなら、会社としても、社員の幸せに向き合っていきたいし、それがないと、会社と社員の成長という両輪を回していけないのです」というメッセージングをするようになりました。

ですので、今、社内で「幸せ」と言っても、違和感はないです。

島村: それは、お見事ですね。多くの企業様では、ビジネス文脈の中で「幸せ」を語ることに、まだまだ抵抗感がありますが、「抵抗がある」こと自体に、何か、改善の余地があるという気がしています。

トップの徹底したコミットメントの上に、継続的なメッセージングを重ねることで、社内に、「幸せ」を語っても違和感がないムードをつくる、という地道なご努力をなさってこられたのですね。

湯川: ただ、最初は、幹部の中からも反対はあったのです。幸せの価値観と言うか、感じ方は人によって違うはずだから、それを企業が「あなたの幸せのために」というのは、余計なお世話だ、という話です。「幸せ」をもちろん否定するものではないけれど、そこに会社が踏み込んでくることに、気持ち悪さを感じる、ということですね。

それももっともだ、と思う気持ちもあったのですが、ちょうどそこに「週休3日」の話が出て、メッセージングがしやすくなりました。

 会社は、社員が「自分で幸せになる」ことを支援する

湯川: そして、「過重労働をなくす」ということを打ち出しました。もともと、それほど残業の多い会社ではないのですが、それでも、過重労働がゼロ、という訳ではなかったのを、「今後は一切認めません」という強いメッセージングをし、そのときに、併せて「社員の幸せ」ということも言いました。

残業を単に減らすだけだと、「会社が残業代を払いたくないからでしょ」というふうに見えるかもしれませんが、そうじゃなくて、「会社のために働いてくれるのはうれしいけれど、みなさん自身が、自分の人生に対して真剣になってほしい。そのためには、会社が、みなさんの貴重な時間を奪うのはよくない」と、伝えたのです。

島村: 偶然か必然かはわかりませんが、国の方針としての「働き方改革」という時流と、御社の中での問題意識が、タイムリーにミートした、ということなのですね。

ここで、大事なことなので、コメントいただきたいことがあります。
私は、「幸せというのは、会社が与えてくれるものではなくて、社員一人ひとりが実感するものだ」という、能動性を大事にするスタンスが啓発されて浸透し、「なんだ、それって当たり前のことじゃないか」とみんながいうようになればいいな、と思っています。

御社では、まさに、社員一人ひとりの自主性を重んじ、エンパワーする取組をなさっているように見えますが、いかがですか?「幸せの自主性」とでも言いましょうか。

湯川: 幸せって、それぞれのあり方とか、感じ方で違うと思うのですが、それを企業が邪魔しちゃいけない。「会社が、あなたたちを幸せにしてあげますよ」というのは、違いますよね、余計なお世話というか。

一方、「幸せになれる時間さえ与えない」というのは、企業として、やっちゃいかんなと思うのです。もちろん、成長のためには、適度なストレスというのは必要ですが、度を越えたストレスをかけて、社員の健康を害したり長時間労働を課すのはよくない。社員の成長とか幸せに配慮した業務分担とか、ストレスのかけ方というのを、ちゃんと理解してやっているかどうか、ということがすごく大事です。

一番いいのは、働くことでも幸せを感じられることだと思っています。多くの人は、人生のうちで、働く時間が多くを占めるので、ここが幸せかどうかによって、その人の人生における相対的な幸せ度は変わってきますよね。

そう考えると、幸せとどう向き合うかは、社員一人ひとりの行動によりますが、そこを搾取しちゃいかん、幸せは、プライベートな時間だけで感じるものではなくて、仕事の時間にも感じるものにしなくては、と思っています。

島村: いろんな企業の方と話していて、まだまだチャレンジが多いな、と私も思います。先ほども出た、「幸せって個人のもので、そこに会社が手を出すというのはどうか」ということは、多くの方がおっしゃいます。

もう1つは、今、湯川さんが言われたように、いまだに、「滅私奉公」「お仕えして、なんぼ」という、自分のことよりも全体のことを優先する仕事観、労働観、というのは根強くあると思いますね。

湯川: 若い人たちはどんどん変わっていっているのですが、残念ながら、昔ながらのスタイルから変わり切れていない人もまだ多いです。「その発言、ダメでしょ」と思うことがありますね。

 「言いたいことを言う」から「言うべきことを言う」コミュニケーションへ

島村: 社内で先進的なお取組みを、いくつもなさっておられると思いますが、「これが、社員の幸せ度を上げていくのに、手ごたえがある」というものがあれば、教えてください。

湯川: 正直、まだ試行錯誤の段階かなという感じです。この数年で、マネジメントスタイルをフォロワーシップ型に変え、上司と部下が毎週30分程度話し合う「1on1」の仕組みなどを入れて、一人ひとりの声に向き合うという文化は、かなり根付いてきたと思います。上司と部下の双方向のコミュニケーション量はかなり増えてきました。

ただ、フォロワーシップを勘違いすると、「部下から嫌われちゃいけない」と思ってしまうことがあります。本来、成長のためには、ちゃんと言うべきことは言わないといけないのに、それが言えないと、メンバーの成長を止めてしまいます。それがメンバーの成長、幸せに悪影響を及ぼす可能性もあるので、さらにどう上長力を磨いていくかが課題です。

島村: なるほど。でも、いったん振り切ったからこそ、そのような課題がでてくるのですね。

湯川: そのことは、今、社員自身も感じていて、「言いたいことはちゃんと言える文化になったね」という一方、それを言う自分たちの責任はどうなっているのか、言いっぱなしになっているのではないか、それじゃいかんな、と。

だから、自由と責任はセット、責任のないところには自由はない、と言っています。どうしても、言うことを聞いてもらえると、「自由になった」感が出てしまう。ただ、言うだけで、ちゃんと責任が果たせなかったら、企業として成長していけなくなるので、結果的に、幸せでなくなってしまいます。

土壌はできているので、責任を果たす、というところにシフトしてきている実感はあります。これが、正しくバランスすれば、組織としてもっと強くなれます。

島村: 多くの企業は、そこまで、振りきれないのですが、御社は、見事なまでに振り切ったからこそ、そこまで行っておられるのですね。

 「信頼」がすべての根幹にある

湯川: 私はよく、信頼という言葉を言うのですが、信頼とは何ぞや、ということは、1on1とか、コミュニケーションの量が増えることによって、築き上げられつつあるのかな、と思っています。信頼がなくて、説教をガンガンやったら、パワハラになってしまいます。愛があるムチなのか、そうでないかによって、ずいぶん違いますよね。そのことが、とても大事だと思っています。

そういう信頼感というか、お互いに言いたいことをいえる関係性ができたことは、とても良かったです。これを大事にしながら、厳しさとか、責任とアジャストしていけると、真に強い組織になります。

島村: 上司が、気がついたことをちゃんと言うことで、その方が本来持っている責任感をエンパワーするのでしょうね。

湯川: そうしていかないと、ただの「ゆるい会社」になってしまします。

ペイ・フォー・パフォーマンスが基本ですから、結果を出ない人の給料は適正な額まで下げますが、雇用は守りたい。雇った以上は、責任があります。

たとえば、誰しも身体的やメンタル的に弱るときってありますが、そういうときでも、1ミリでも成長しようとか、1ミリでもお客様のために尽くそうとか、仲間のために貢献しようとか、そういう意思があるのであれば、全力で支援したいのです。

でも、「なんで私のことを成長させてくれないんですか」とか、他責の発言ばかりする人、こういう人を認めることができません。そういう人と一緒にいるのは、お互い不幸ですし、その人のことを思ったら、その人がもっと活躍できる場にちゃんと移ってもらうよう伝えることも、会社の責任だと思っています。

島村: 今のお話でも、湯川さんは、「向き合う」とか「踏み込む」ということを、とても大事になさっているように感じます。

湯川: はい、そこが、一番大事にしているところです。繰り返しになりますが、信頼、というのがとても大事ですし、信頼は双方向のものだと思っています。

もっと言うと、信頼は「順番」が大事です。人間は弱いので、どうしても、好かれたい、信頼されたい、と思うのですが、まず、「あなたは、周りのメンバーを信頼していますか」と訊きたい。自分は周りを信頼しないのに、自分のことは信頼してほしい、そういう人って、案外多いのです。メンバーや同僚を信頼しないと、信頼もされません。

評価の仕組みもいろいろありますけど、本当は1問だけ、「この人のことを信頼できますか?この人と一緒に仕事をしたいですか?」と訊けば、その人のパフォーマンスは、評価できてしまうのです。いくら頭が良くても、評論家タイプの人は、周りからは「この人と一緒に仕事したくありません、信頼できません」と言われてしまう。

1問だけだと、結果がよくなかったときに何を改善すればいいかわからないので、評価の設問としてはいろいろと訊きますが、組織として仕事をしていく上では、それが一番大事なところだと、私は思っています。

島村: まず自分から、目の前のこの人を信頼する努力をしようよ、と。そのためには、自分が言いたいことを言うだけではなくて、相手が何を考えているかをちゃんと聴く。このコミュニケーションが、信頼残高を高めていく。そういうプロセスが、御社の中では、すでに始まっているのですね。

湯川: 信頼関係がないところで説教するから、聞いてもらえないし、パワハラと言われてしまう。信頼されるなら、まずは信頼することが大事です。

島村: このメッセージは、部下指導でチャレンジを感じておられるミドル以上の人には、示唆に富んだ、実効性のあるアドバイスだと思います。

そのことを、中堅以上のビジネスパーソンが意識してくださるだけで、現場の、一人ひとりの部下の表情が変わってくるでしょうね。

 「ちゃんと見ているよ」を伝える、1on1

湯川: 要は、「ちゃんと見る」ということで、1on1も、そのためのツールです。週に1回、「あなたのことをちゃんと見てるよ、ちゃんと聞くよ」という場を設けることで、部下の方は、「上司が私のことを見てくれている、見てくれているからがんばろう」と思って仕事をする、そこに信頼関係が構築されていきます。

島村: 「愛している」の反対は、「大嫌い」ではなく、「無関心」である、といわれますが、ちゃんと関心を向ける、ということが上司の仕事で、その過程で、信頼関係が築かれる、ということですね。

湯川さんが、ご自身でも、また会社の施策としても、そのことをとても大事になさっていることが、伝わってきました。

湯川: 1on1は全社に浸透し、今はもう普通に、あたりまえにみんなやっています。これがあると、たとえばちょっと話しづらい人でも、「1on1しましょう」というと、話せます。きっと、上司の人は、助かっていると思います。

特に、苦手なメンバーと、いつもは話をせずに、期末に「あなた、今回、評価悪かったです」って言ったら、素直には受け入れてもらえません。苦手なメンバーでも「人事が、1on1やれって言ってるからさ」といって日ごろから課題点をフィードバックできていれば、仮に期末に厳しい評価になっても、もめることはありません。その人もきちんとと受け止めるので、結果、成長につながっていく、そんなループが回せるのです。

 新しいことをやるには、新しい配役がいる

島村: そういう御社の成功事例をみて、うちもやりたい、と思う企業は多いのですが、なかなかうまくいかない。そういう企業に、「ここがキモだよ」とアドバイスするとしたら、どんなことでしょうか?

湯川: 当社の場合は、経営トップが変わった、というのが大きく、宮坂体制になってから、一気にこういう仕組みを導入しました。経営トップが変わらないで、こういうことをやったかというと・・・う~ん、一定度の配役は変えたほうがいいかな、と思います。

もし、年功的に、同じ方がずっと同じところにいる中で、方針だけが急に変わると、「どうせ、口先だけじゃないか」となるかもしれません。変われない組織、というのは、何かどこかに原因があるので、生みの苦しみはありますが、配役も変えつつ、「企業体質をこう変えていくよ」というメッセージとセットで発信していかないと、「また、会社が新しいこと言ってるよ、めんどくさいな」となってしまうのではないでしょうか。

島村: 配役、キャスティングが変わるので、言うことも当然変わる。もし、同じキャストが別のことを言っても、信憑性がないかもしれませんね。

湯川: 別に、今いる人を否定するわけではなく、その人にとっても成長の機会かもしれません。なので当社ではよく「経験学習」といっているのですが、なるべくいろんな経験を積んでいくことが、その人にとっても成長につながるでしょうし、企業の鮮度も保たれていく。新しいことをやるなら、キャスティングとセットでやるのが、1つのコツではないか、と思います。

特に、昔のように年功的な企業ではなくなっているので、会社の配役、ローテーションがされていかなければ、若い人が出て行ってしまう、ということもあります。

うちは、常に、揺らしすぎじゃないかと思うくらい、意識的に揺らすのです。わざと不安定する。そうすると、なんとかせねばならない、というので、知恵を出して、より安定しようとする力が働きます。

事故というのは、油断しているときに起きますよね。登山でも同じで、転倒などはなんでもないところで起きる。危ないところでは緊張しているので、案外、怪我をしないものです。

 大企業でこそ、「幸せ経営」は継続する

島村: この「幸せ研」は、大企業を対象にしています。大企業こそ、幸せ経営をするのが難しい、という実感値があるからなのですが。御社の場合、きわめて短いスパンの中で、社員が増えて大企業になられたわけですが、幸せ経営の難しさが増している、ということはありますか?

湯川: いや、私は、大企業でも、「幸せ経営」はできると思います。中小企業の場合は、オーナーの方の力が強かったりするので、うまくバトンタッチしていければいいのですが、リスクも抱えていますよね。大企業の場合には、そこは仕組み化することができると思っていますし、自浄作用が働きやすいと思います。

島村: キャスト、配役を変えるのも、大企業の方が変えやすいですよね。小規模経営だと、どうしても同じ人が経営を続ける可能性が高くなります。大企業の方が、どんどんキャスティングを変えて、揺らぎを与えて、仕組みでサポートしていく。

湯川: うちはIT企業なので、そこは、テクノロジーで解決すべきところだと思っているのです。

最近、もう1つの関心事がダイバーシティで、すごく難しいな、と思っています。多様性って、際限なく多様になっていくのです。

ただ、7000人いたら7000通りの雇用形態があればいいとも思いますし、そういうことは、大企業だから、逆にできるのではないか、と思っています。中小企業で、総務3人しかいないのに、3人バラバラだと大変ですが、当社の場合、人事だけでそれなりの人数がいますので、この中で3人休みになっても、勤務時間帯が違っても、カバーできます。

いろんな働き方の選択肢が増えることによって、一人ひとりの幸せ度がより高まりやすいような環境は、大企業だからつくれる、というところがあると思います。

島村: 今の言葉で、とても勇気づけられました。大企業だからできることをやっていきましょう、ということですね。

湯川: 我々も、「ヤフーだからやれることを、やろうよ」と言っています。ベンチャーにはやれないことでも、ヤフーならできることがあるし、そこにある大きな満足感とか、幸せを感じてもらえる可能性があると思うのです。

島村: 先ほどのダイバーシティに関していうと、先日、短い日程ですが、ニューヨークに行ってきて、街を歩きながら、これがダイバーシティか!と思いました。日本では考えられないような、あらゆる種類の人間がいて・・・。グローバルで勝負していこうとしたら、もっとすごい次元のチャレンジが、ダイバーシティにはありますね。

湯川: ダイバーシティについては、日本は、ずいぶん楽をしていると思います。
LGBTに関連して、先日ある企業の方と話していたのですが、その企業ではLGBTの方の比率が多いらしく、そもそも、お手洗いが男女別に分かれていることが意味をなさない、という話も聞きました。

働き方改革も、幸せ経営も、ダイバーシティも、すぐには結果に結びつきにくいのです。でも、それをやっておかないと、中長期的には、企業として勝っていけないし、持続的に成長できない、という危惧があります。

そこに関しては、経営の胆力が問われると思っています。

島村: 本当にそうですね。今日は、とても勇気づけられるお話をいただいて、ありがとうございました。

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