「みんなで幸せ研」対談 第8回

<新田 信行さん プロフィール>
「みんなで幸せでい続ける経営研究会」第2期からのご参加メンバーのお一人
第一勧業信用組合 理事長

1981年 第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行
みずほフィナンシャルグループ与信企画部長
みずほ銀行銀座通支店長
みずほ銀行コンプライアンス統括部長
2011年 みずほ銀行常務執行役員
2013年 第一勧業信用組合理事長就任
 
<島村 仗志さん プロフィール>
「みんなで幸せでい続ける経営研究会」共同代表
株式会社ウエイクアップ 代表取締社長役(当時)
ウエイクアップは、リーダーシップ、コーチング、組織開発を通して、人や組織の可能性が最大限にひらかれることに力を注いでいる、プロフェッショナル集団である。
著書:「コーチングのプロが教えるリーダーの対話力 ベストアンサー」など

目次

地域金融の変革は、ワクワクの連続

島村 仗志さん(以下、敬称略): 新田さんが、本当に素晴らしい経営改革を展開なさっているということは、先般の、「みんなで幸せ研究会」定例会のご講演でも承っています。今日は、せっかくの機会ですので、その経営改革をなさっておられる、新田さんご自身のお気持ちとか、ご苦労話、あるいは喜びなどに焦点をあてて、お聞きしたいと思っております。

 今、大変革の中に、身を置いておられるのですが、どんなお気持ちなのですか?

新田 信行さん(以下、敬称略): 基本は、ワクワクですよ。あれもやりたい、これもやりたい、もっとこうしたい、ああしたい、というのがたくさんあって、ストレスフリーかもしれませんね。

 世の経営者の中には、会社に行きたくないとか、胃が痛くなる、とか言う方もおられるようですが、そういう感じじゃない。むしろ、趣味に使っている時間ももったいないというか・・・。

 私は、けっこう、多芸多趣味で、色々なことをやりますが。その時間がもったいなくて、こういう関係のこと(経営改革)に時間を割きたいな、という気持ちの方が強いですね。

島村: それは、多くのビジネスパーソンがあこがれる、目指している境地だと思うのですが、それは、朝起きたとき、「よ~し!」という感じなんでしょうかね?

新田: どっちかというと、仕事をしている、という感覚よりも、自分として生きている、という感じですね。私の場合、正直、どこが仕事で、どこがプライベートかって、あまりないですから。見ようによっては、365日24時間、仕事しているようにも見えるし、見ようによれば、毎日、好きなことをやっているようにも見えるだろうし・・・。

経営者として、自分の「天職」を生きる

新田: それは、天職というか、自分の人生の目的とか価値と、会社の目的・価値がシンクロしているイメージです。

 会社は、ビジョンを持ち、パーパスがあって、それに対するバリューがあるわけですね。でも経営者って、たぶん、自分の人生においても、それらを内省する必要がある。自分は何のために生きているのか、自分はどういう人生を残したいのか、自分の人生の価値って何なんだ、とか、こんな人生にしたいっていうビジョンだとかが、ありますよね。明確に意識している人と、ぼやっと思っている人がいるかもしれませんが、強い経営者というのは、それを持っているはずです。

 そのような、個人としての「思い」が、共感を生んだり、人を巻き込んでいく関係性を作ったりしていくのです。逆に、それがなくて、会社のためにとか、手続きはこうだとか、今までの前例はこうだとかいう経営者は、自分の中から発信するものがないので、リーダーとして、人を巻き込んでいく力がない、と思っています。

 強い経営者は、自分の人生の目的だとか、自分にとっての人生の価値だとか、自分の人生をこうしたいというビジョンがある、と思うのです。

 一方で、会社には、当然のことながら、何のためにこの会社があるのか、ということがありますよね。形式的にいえば、定款とかですが、それは、自分のため、とか利益のためではなく、「何か」のためにあるわけです。その中で、自分たちはどういう価値を大事にしよう、どんな会社にしていきたい、ということを考えますね。

 私の場合、そのイメージが、シンクロしていると思うのです。ふつうに「自分らしく生きている」ということが、すなわち自分の会社の目指すことをやっている、やりたいことをやっている、ということなので、ストレスフリーなのです。
もっとこういうことやりたい、ああいうことやりたい、というのが、会社として目指しているものと「合ってしまう」んです。
 だから、「自分自身と、会社の自分とは、別もの」というサラリーマン的な感じ方とは、全く逆ですね。

トップの仕事は、ビジョンを示すこと

島村: 本当にありがとうございます。多くの会社では、会社のミッション、ビジョン、バリューを、エンゲージメントやマネジメントに活用されていますが、新田さんがおっしゃった、「経営者自身が、まず自分の人生の目的や価値観を明確にする」というのは、とても大切なことだと思います。

 実は、私どものコーチングでも、それを、エグゼクティブの方々への大事なアプローチとしておりますので、うれしくうかがいました。

 新田さんご自身が、そういうお考えになられたのは、いつごろなのでしょう?どんなきっかけで、そう思われたのでしょうか?

新田: 私は、前職は、みずほ銀行の常務だったのですが、みずほの中でも、サラリーマンとしては、そういう考え方を持っていた方だと思います。ただ、それがより鮮明になったのは、第一勧信に来てからです。

 みずほにいたときは、常務といったって、上に、頭取とか副頭取とかがいるわけで、僕が「こうしたい」と言っても、それが通るとは限りませんよね。でも、ここでは、私の上は誰もいないので、「こうやりたい」というのは、自分で考えなくてはいけない。

 ビジョンというのは、残念ながら、部下からは上がってきません。「こういうようにしたいよね」と言って、それを見せるのが、僕の仕事です。それを、みんなが、たたいたり、つついたりして、それぞれの人のものとして消化してもらえばいい、と思っています。

 何にもない中で、部下に、「ビジョンを創れ」と言っても、それは無理です。それは、トップが創るべきものだと思います。そして、トップのビジョンには、自分の人生のビジョンというものが、どうしても出るのです。もっと社会をよくしたい、とか、日本の未来はこうしたい、とか。そう考えると、うちは今こういう立場でいる、じゃあうちとして出来ることはこういうこと、というように、重なってきますよね。

 なので、さっきのご質問に戻ると、そう考えるようになったのは、当組に来てからで、それも年数が経てば経つほど、そういう思いが強くなってきています。

「自分は、この人生で何を成すのか」という問いと向き合う

島村: お話をうかがって、今のお立場に立たれたときに、改めて、「さて、自分はこの人生で何をなすのか」という問いに向き合われた、ということが伝わってまいりました。

新田: 当組に来て、いろいろと始めてみたら、意外と、他の人がやっていないことが多いことに気がつきました。
 今、世の中では、地域金融が大変だ、大変だ、といっています。あそこがつぶれたとか、学生が採用できないとか、退職者が多いとか。実は、日本の中で、メガバンクと信用組合の両方の経営を知っているのは、私一人なんです。他に、誰もいないんです。

 信用組合の経営者にも素晴らしい方はたくさんいますが、メガバンクの「眼」が少ないのです。メガバンクの「眼」というのは、世界の眼です。地面を歩く眼はあっても、空から見る眼が少ないんです。逆に、メガバンクの、鳥の眼で飛んでいる人たちは、地べたが見えにくい。

 そういう意味で、私自身は、とても気づくところが多いし、それを発信していかなきゃ、という使命感があります。そして、これを、誰かがやらないと、日本はよくならないな、という思いがあるのですが、その場所にいるのは、私だけなんですね。もちろん、別のお立場で、がんばっておられる方々は、たくさんいらっしゃるのですが。

 そう考えると、あれもこれもやりたい、ということがすごく見えてしまいます。あれも欠けてる、これもやらなきゃ、今日本はこんな問題を抱えている、と。でも、周りを見ても、誰もやってない・・・。そういう、未来に向けての課題認識を、ものすごく感じてしまうので、微力ながらも、その中で、自分ができることは、やってみようと思うのです。

 自分の人生、当組での人生を含めて、要は、世のため人のためになって、よい未来を創る、ってことですよね。世のため人のために、私自身とか当組が役に立てるのであれば、世の中の未来、子どもや孫の時代にいい方向になることであれば、しかもそれを誰もやっていないとしたら、やりますよね。
気持ちは、そんな感じです。

島村: お話をうかがい始めてから、本当に素敵なエネルギーを浴びていて、光栄ですし、私も幸せな気持ちになっています。

メガバンクの最前線で苦闘した日々

島村: 今のお立場になられて、スイッチが入った、ということをお話し頂きましたが、その前におられた銀行の中で、自分が思うことを大切にしながら、どのようにして、役員にまで登りつめられたのでしょうか?

 一般的にいって、大組織の中では、自分が「こうしたい」と思うことがあっても、それを二の次にして、組織の意思を優先する、そういう人が上にいく風潮があるように思うのですが。

新田: もしかして、第一勧業銀行という社風が、僕を残してくれたのかもしれないと思います。第一勧銀の中でも、私はやはり私一人しかいないんです。みずほでもそうですけれど、役員になる人間というのは、他に似たような人間がいなくて、Only Oneだからなるんです。例えば、営業の中で、稼ぐ人がたくさんいて、その中で、あいつが特に稼ぐから、あいつを上げよう、というのではないのです。そうではなくて、私は私一人しかいなくて、私の代わりになる人間がいないので、残っちゃうんです。

 バブルの崩壊以降の、激動の中で、今までの手続きとかマニュアルじゃ対処できない、危機的な状況が次から次へと来たわけです。その危機的状況の中の、いつも最前線の現場で、切った張ったをやったのが私なんで、その経験値が、圧倒的にあるのです。

 上にしてみれば、そういう話になると、「ああ、あいつを使え」になるんです。私は、企画などよりも、銃弾の飛び交っている最前線で身体を張ってきたタイプなので、そういう現場の力、経験値が特に高いように思います。

若い日の失敗体験が、「自分は、自分でいる」覚悟を生んだ

新田: ちょっと、大学時代の話をしますね。私は、一橋大学の水泳部のキャプテンだったのですが、一橋の体育会のキャプテンというのは、ほとんど、商事会社に行きます。

 銀行には大学の成績の優秀な同期が多く、自分のような体育会系の人間は周りにほとんどおらず、「何で銀行に来たの?」みたいな目で見られましたが、逆にいうと、それは個性になりますよね。

 私は、実は若い頃に、失敗体験があります。入行して5年くらい支店に在籍した後、本部の業務推進本部、その後、営業部、そして人事部と、最年少で異動しました。そのときに、勘違いしちゃったんですね。「もしかして、オレって、エリートなんじゃないか」ってね。

 そして、「エリートなんだから、手続きとか、先輩のまねをしなきゃいけない、自分を殺さなきゃいけない、自分の個性を出しちゃいけない」と思ったのです。そして、自分の個性を殺しまくった結果、全くうまくいきませんでした。

 その時、「ああ、自分は自分らしくやるしかないんだ」と、もう偉くなりたいとか、そんなことは考えるのをやめよう、と思いました。

 「自分の信念に従って、自分らしくやるしかできない」という思いを持って、自分の意見をバンバン言うようになりました。
ちょうど時代は、バブルの後で、金融が一番苦しい時期に入っていきます。
厳しい仕事に逃げずに取り組み続けていく中で、経験が増え、度胸もつき、「あいつは、現場の切った張ったは、やたら強い」ということになっていったように思います。

前例のない世界で、「自分」を頼りにやり抜く

新田: 結局、自分が「こうだ」と思うことを、自分で一所懸命考えて、悩んで、手続きだとかマニュアルだとかがほとんどない世界で、課題に取り組んできたのが、僕なんです。実際、手続きやマニュアルや、上司だとか先輩だとか見ても、そこに答はないんです。そうすると、結局、自分で考えて、自分の思うように一所懸命やったのが、とにかく何かやらなきゃいけない中で、ベストではないにしろ、ベターなことだったかな、と思います。

 金融人生活を、40年やっていますけど、人事部を30代後半で出てから以降は、現場の最前線を、切った張ったでやっていく、こういう経験を積み重ねてきたことになります。気がついてみると、一緒にバブルの後の不良債権問題を必死にやった連中で、今、生き残ってこうやっているのは、僕くらいです。みんな、リタイアしています。

 ある意味では、前の「戦争」の生き残りなんです。だから、今の状況に対して、「今、けっこう危ないよ」とか、「こんなに東京の地価が上がってるけど、浮かれない方がいいよ」とか、いろんなものが見えている。その経験をもっているので、これからの人たちに対して、過ちは繰り返すな、ということを残していかないとまずい、という使命感はあります。

島村: 誰に聞いても前例のない、実弾飛び交う最前線で、「どうするんだ?」というときに、自分が何を大事にするかを問い続けてこられた。それが、金融マンとしての、新田さんの人生でいらしたのですね。

 それが、「自分は、どうしたいのか」ということを、常に心に定めて、目の前のことに処す、という基本姿勢を培ってこられたのだな、ということが、伝わってまいりました。

「内」は見ない、見るのは「外」と未来だけ

新田: その最前線のときって、自分は「サラリーマン」じゃないんです。ティール組織の最前線ですよね。上司見たって、しょうがないんですよ。前例もないんですよ。そうすると、結局、お客様と、社会と、外と、未来を見るしかないんですよね。

 何か事件が起きたとします。メディアに対して、金融庁に対して、被害者の方に対してどう対応するか、って、銀行の「中」の論理では解決しません。「ウチの手続きはこうなってます」なんて。「じゃあ、その手続きを直せよ」ということになりますよね。どうしても、お客様、社会が、僕らをどう見ているかを考えるしかないのです。内向き、上向きになっているひまなんか、ないんですよね。

 大事な価値というのは、内とか、上には、ないんです。現場と、外と、社会にあるんです。

島村: これをお読みになる、多くのビジネスパーソンにとって、すごく勇気づけられる、エンパワーしてくださるメッセージを、たくさん頂いています。

 「個人としては、こうしたい」と思っていても、組織の論理や有形無形のパワーによって、本来「こうだ」と思っていることが発露できなくて、葛藤している、という人たちが、たくさんいらっしゃると思います。

 それに対して、メタ認知、つまり「本来あるべきところからみたら、それは、どうなの?」、「外から見たら、あるいは当事者たちから見たら、我々のこの“常識”は、どうなんだい?」、というお問いかけをしてくださっているわけですね。

新田: 「自分がやりたいことがあるんだけど、できない」という言葉を聞くと、自分の人事部時代を思い出します。本当は、できるんですよ。ただ、もしかしたら、上司からイヤな顔をされるかもしれない。周りから、「あいつは、バカだ」って言われるかもしれない。あるいは、昇格できないかもしれない、ということはありますよね。

 私は、もちろん、女房子どもを路頭に迷わせることはしたくありませんが、退職することは全然恐くなかったですね。退職届は、いざとなったらいつでも出してやろうと思っていました。私は、銀行の中で偉くなりたいとかあまり思わなくて、いざとなったら、千葉に帰って百姓やればいいやっていう気持ちがどこかにあって・・・。

 みんな、肚が括れない、とかいうけど、実際はできるでしょ、と思っています。「周りの人から悪く思われたくない」とか「昇格が遅れるかもしれない」とか、どうでもいいことじゃないですか。

島村: ところが、組織の中に身を置いていると、その「どうでもいいこと」が、人生のすべて、みたいになっちゃうんですよね(笑)。そこが、本当に難しいところです。

大切なのは、「下向き、外向き、前向き」

新田: 自分が銀行に入ったのは、銀行とは社会的・公共的な存在なんだ、という思いがあったからです。ところが、私はバブルのときは本部にいて、バブルの現場はほとんど知らなかったのですが、本部から出たときには、それが崩壊して、30代後半から、延々とその負の遺産の後始末を、ずっとやり続けてきたことになります。

 銀行は、世のため、社会のため、といいつつバブルを作り出し、結果として、ほとんどの銀行はつぶれてしまったわけです。自分たちが何をしているのか、それが本当に社会のためになっているのか、あるいはサステナブルなのか、未来を見ているのか、を問い続けていかないと、以前のようなことになってしまう。そういう意味で、「前の戦の生き残り」って言ったんですけれども、「金融業界の人間がしっかりしないと、こういうことになるんだ」と感じたこと、これが僕の原点ですね。

 社会が何を求めているのか、私たちは社会に対して何ができるのか、が先にあって、じゃあ私たちはどうするのか、ということがある。それなのに、今までの私たちが何をしていたかというと、ほとんどが、失敗の連続でしかないんです。それをやっぱり、変えなければいけない。

 よく、僕は「上向き、内向き、後ろ向きは、嫌いだ」と言います。つまり「上司を見て、本部を見て、過去を見る」ことをしても、何の価値もないでしょう。少なくとも、金融機関でいうと、それは失敗の連続でしかないので、私は、「下向き、外向き、前向き」というのです。お客様を見ますよ、未来を見ますよ、そして「下向き」、つまり部下を見ますよ、と。部下というのは、「将来」なんです。自分がいなくなった後は、部下が支えてくれるのです。

人を上下関係で見る人、対等関係で見る人

新田: 人と人を、上下関係で見る人と、対等関係で見る人がいます。今までの銀行などは、上下関係で見てきました。そうすると、「オレは、お前より偉い。だから言うことを聞け」ということになります。そして上下関係で見る人は、上に対して、ゴマをすりますね。私は、一切、そういうことが嫌いだったので、先輩から忠告されたこともありました。「お前、ゴマがすれて初めて一人前だぞ」って(笑)。

 私は、部下に対しても、対等のつもりでずっとやってきて、第一勧信でも、「さんづけ」で、肩書なし、にしています。

島村: そもそも、人との関係は対等なんだ、という信念が、新田さんの人生に、強烈におありなのですね。人間が役職の上下で存在しているという組織に対する、新田さんの痛烈なOnly Oneのあり方、そして、その新田さんが元気でご活躍くださっていることに対して、本当にありがとうございます、という気持ちです。

新田: 結果的に、時代は、そうなってきているかもしれません。今までは、大企業では、個性を殺す、組織の歯車になるのがいいことだ、とされてきました。バブル時代の採用面接で、長所を訊かれた学生が、「私はいろいろ工夫して、いろんな新しいことができます」と言ったら、それで落とされたそうですよ(笑)。これは、日本が発展途上時代だったときの発想で、今は個性が大事な多様性の時代です。

 第一勧信で、僕は「理事長」ではなく「新田さん」と呼ばれています。「僕は、役割としては理事長だけれど、みんなが、理事長として僕を立てているんなら、やめてほしい」と言いました。僕は、「新田」という一人の人間として、一所懸命生きているので。

島崎: それをポーズではなく、本気で、皆さんに伝えておられるわけですね。そういう、新田さんの人間としての基本的なスタンスは、部下の方にとっては、ものすごいスペースの広がりになりますよね。

世の中の「Only One」として立つ

新田: インターナショナルになればなるほど、実は、個の力、フレンドシップが大事なんですよ。みずほの常務時代、私はメディアに人気があって、いろんな取材申し込みで、秘書が大変でした。ところが、第一勧信にいったとたん、メディアは来なくなりました。

 でも、逆に、中小企業のオーナーたちが、信用組合の理事長になったら、「酒、飲もうや」といって、来るんです。彼らはピンで立っているので、組織人の「肩書」ではなくて、「人」を見ているのですね。

島村: 私も、ささやかながら、企業の経営をやっていますが、やはりそれは、私の人生そのものです。役割と自分が切り離されない、というリスクはありますが、「ピンで立っている」という意識は、私にも間違いなくありますね。

新田: ところがまた不思議なことに、この信用組合で、自分なりのやり方をやっていたら、理事長になって2年目くらいから、急にいろんなところからのアクセスが増えましたね、「珍しい信用組合の理事長がいる」ということで。例えば、芸者さんにお金を貸したりしましたから。

 当組に来て、7年目になりますが、来たときと今では、様変わりです。信用組合の理事長でも、「自分たちは、Only Oneなんだ」とやっていると、注目されるんですね。

 ヘンに要らないことをやるつもりはありませんが、世の中のニーズに対して、金融があまりにも対応できていない。誰ひとり、芸者さんにお金を貸そうとしない。スモールの創業支援をやろうとしたり社会的課題の解決に対してお金を出そうとする人は、ごくわずかしかいない。

 それを私はやりたいし、私以上に「やりたい」と思ってくれている仲間たちが、ここにいます。第一勧信の中で、それぞれの立場で、それに共感して、私以上にワクワクしてやってる人が多いと思います。「私、これやりたいんです!」っていうから、「おお、やったら」って言ってます(笑)。

ビジョンの主語は、「日本、世界、人類」

島村: 企業経営のあり方を、利益偏重ではなく、「関係者一同の幸せこそが経営の目的」ということを、経営者の皆さまの選択肢にできれば、と思って、この「みんなで幸せ研」を立ち上げて、4年になります。

 個人では共感を頂いている方が多いのですが、組織体での意思決定になった瞬間に、「上向き、内向き、後ろ向き」になるのです。この現状を、何とかブレイクスルーしたいと思っていますが、新田さんからご覧になって、ここがツボ、というところがあるでしょうか?

新田: このごろ、金融機関に、「ビジョン、パーパス」の話をするんですが、「あなたのところのビジョンは?」というと、「コスト削減したい」なんていうんです。「いや、ビジョンは、あなたのことじゃない、外にあるんだ」というのですが、なかなか理解されない。やはり、みんな、自分がかわいいのですね。

 ビジョンというのは、「どういう社会を創りたいか」なんです。だからこそ、共感できるんです。第一勧信がもうけたいとか、効率化したい、っていったら、主語は第一勧信じゃないですか。主語が自分じゃ、ダメなんですね。なぜなら、他の人の共感にならないから。日本をこんなに素敵な未来の、こういう国にしたい、もっと言えば、人類の未来をこういうふうにしたい。これがビジョンです。それを持ってほしい。できれば企業体として持ってほしいけれど、個人だって、持てるはずですよね。

 地方でいえば、地方創生。宮崎でいえば、宮崎をこういうふうにしていきたい。このままじゃ、過疎化が進む、高齢化が進む、廃業が進む。もっと人々が生き返って繁栄して、若い人がのびのびと働けるような宮崎にしたい。これなら、ビジョンになるんです。

「社会=コミュニティ」を支えるのが、地域金融機関

新田: 一方、こういうこともあります。政治があります、経済があります、でも、政治と経済だけで、世の中、成り立ちますか? 例えば、共産主義がうまくいかず、ロシアが倒れたとき、「資本主義の勝利だ」といわれたけれど、それは、資本主義の勝利ではなくて、「全部を国家に寄せたときは、うまくいかないよね」ということです。今は、誰も「資本主義の勝利だ」とはいわないですね。

 結局、政治と経済だけでは、いい世の中はできません。もう一つ、「社会」がいるんです。政治は、イデオロギー・理念で、経済は、金もうけ・利益です。そして社会は、人と人とのつながり、コミュニティなんですね。コミュニティ、人と人との関係がなくなったら、政治と経済だけで、世の中、安定しますか?

 私たち地域金融機関というのは、地域社会の、社会的な存在なのです。まして、協同組織金融機関というのは、社会、コミュニティを支えないと。今の日本の、ギスギスした感じって、政治と経済に走って、社会がないがしろにされているように思えて、しかたありません。

島村: 非常にわかりやすいですね。

新田: 東京の中だと、この「社会」がどんどんズタズタになっていくような気がする。マンションの隣の人でも、誰が住んでいるかわからない、町内会費払わない、町の盆踊り誰も出てこない。そういう中で、政治と経済だけで、人々が幸せに暮らせる未来があるとは思えないのです。

 上杉鷹山的に言えば、政治は公助、経済はたぶん自助、でも、これだけじゃ、防災ひとつとっても、できない。必ず、共助というのが必要なんです。私たちは、相互扶助の組合なので、そういう意味でも、私たちがもっとがんばらないと、日本の未来、人類の未来はよくならないんじゃないの、と思っています。ロシアや中国が国家に走り、アメリカは資本主義、金もうけに走り、世界ががちゃがちゃやっている中で、日本を良くしようと思ったら、もちろん、政治も大事、企業ががんばるのも大事ですが、一方で、社会の存在、人と人との関係性の存在、関係性の価値というものがあり、元々、日本はそれを大切にしてきたと思います。それを、僕らは、金融面から取り戻したい。

自分の人生と仕事がシンクロして、「天職」になる

新田: 僕が、天職と申し上げたのは、たまたま40年も金融の世界にいて、多分、私と同じところにいる人間は、自分しかいないんです。だったら私が、社会的金融を一所懸命やろうと思ったのです。第一勧信も、元々相互扶助の組合ですから、ご縁でここへ来てみて、やってみて、歳を重ねるほどに、自分の人生と、第一勧信でやりたいことがシンクロしてきているのです。

 7年前に来たときには、そこまで協同組織のことを知らなかったし、第一勧信がこうしたらいいよねということも、ここまでクリアじゃなかったです。そして、自分の使命感も、こんなに強くはなかったですね。初めは、こういう協同組織金融機関にもいろんな方がいらっしゃって、メガバンクにはできないことをやっておられるんだろうな、と思っていたのですが、意外にやられていない、ということに気がついたのです。

 そして、7年前と比べて、こういうことに反応する人が、ものすごく増えました。これは、世の中の大きな流れ、世界的にも、リーマンショックの後の流れの中で、資本主義の終わりだとか、共感資本主義だとか言われて、いろいろなものが動き始めたのではないかな、と思いますね。

 先週でしたか、アメリカでも、ラウンドテーブルが、「株主第一主義」を見直す、と発表しましたね。(*注1)
  *注1:米主要企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは、2019年8月19日、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した。

GABVがやろうとしていること

 当組は、去年7月に、GABV(*注2)に加盟いたしました。
  *注2:持続可能な経済・社会・環境の発展に対する貢献を目的とした金融機関による国際組織「The Global Alliance for Banking on Values(略称:GABV)」

 このGABVは、2009年の創立で、リーマンショックに対する反省をもとに、ヨーロッパの9つの金融機関が、自分たちはもっと価値のある金融をやるんだ、と立ち上げたものです。今、全世界で55の金融機関が加盟していますが、日本では、当組合だけです。

 入ってみて、びっくりしたことがあります。彼らが言ってきたことは、私が考えてきたことそのもので、しかも私より数年早く、2009年にすでに言っているんですね。

 まず1番目は、トリプルボトムライン、つまり、People、Planet、Prosperity、今流にいえば、SDGs と言った方が早いですね。包摂性と多様性、誰ひとり取り残さないでみんなでやるんだよ、ということ。

 2番目が、リアルエコノミー。実体経済にもとづき、それを育てる金融で、デリバティブのようなマネーゲームじゃないよ、ということです。

 3番目が、クライアントセンタード。お客様第一主義かと思ったら、地域コミュニティのことで、コミュニティとの長期的なリレーションをとる、ということ。リレーションシップ・マーケティング、関係性が価値だ、という考え方が底流にあると思います。

 つまり、コミュニティを大事にして、実体経済を大事にして、しかもSDGsだ、と。自分と同じことを、2009年から言っていて、世界中でそういう場があるということに、びっくりしました。で、会いに行って、とても意気投合しましたね。

 私は日本で、ずっとそのようなことを言ってきて、金融機関以外にも共感してくれる人たちが増えてきたのですが、世界を見ると、世界中に共感する人たちがたくさんいたのです。世界的に大きなムーブメントになっている。彼らは、自分たちの力で、良いこと・正しいことをやる金融によって、人類の未来を変えていくんだ、と言っています。
これが、ビジョンですよね。

 これまで、日本しか考えていませんでしたが、彼らは、世界とか人類を主語にして言っているのです。

SDGsは、「幸せの4因子」

新田: 僕は思うのですが、SDGsって、「幸せの4因子」なんですね。「持続可能な」というのは、第1因子ですよね。「夢、目標を持って成長しましょう」というsustainable development のことだと思うんです。また、「誰ひとり、取り残さない」という包摂性は、第2因子。利他的で、たくさんの友だちがいて、感謝する、って、第2因子ですよね。そして、「多様性」は、第4因子の「自分らしく」そのものです。そして、第3因子の「楽観的」。

 考えてみると、SDGsって、「人を幸せにする」ことです。そう思って世界をみると、世界の指導者たちは「分断」に走っていますが、どう見ても、彼らは幸せじゃないですよね。

島村: ありがとうございます。今おっしゃった、SDGsが幸せの4因子だ、というお話を含めて、とても大きなエネルギーをいただきました。

 何よりも、新田さんご自身が、そうやって、ストレスフリーに、毎日ワクワクしてしょうがないんだ、というお気持ちでいらっしゃることで、組織内に、幸せが伝染して、皆さんがますますやる気を持って、お仕事に取り組んでおられるんだな、ということが伝わってまいりました。僕ら自身が、エネルギーをいただき、すごく元気になりましたし、これから、何が起きるのか、本当に楽しみです。

メタ認知、「幽体離脱」のできない経営者は、経営ができない

新田: 自分の国のことしかわからない人には、総理大臣はできません。そして、自分の会社のことしかわからない人間には、社長はできないですよね。自分の組織のことでも、自分の支店しかわからない人には、支店長はやらせられないです。周りが見えていると、その大局観の中で、自分の支店をどう経営しようか、ということがわかる。町のことがわかる、お客様のことがわかって、初めて、じゃあ、この支店はこういうふうにやっていこう、という方針が決まるわけです。

 同様に、今の日本の社会がどうなっているのか、を考えることによって、その中で何をやっていったらいいのか、という自分たちの方向がきまるのです。

 ところが、残念なことに、ほとんどの金融機関においては、主語が「自分」なんです。

 視野を広げる、共感の範囲を広げる、できればいろんな人の立場に立って仲間を増やして、利他的な気持ちで、相手が何を考えているのか、というメタ認知、僕は「幽体離脱」って言っていますが、「自分が〇〇だったら」という側に自分の身を置いてみないと、そうやって外から見ないと、物事は見えてこない。第一勧信から「幽体離脱」できないで、大局観がない中では、正しい道筋は見えないよね、とみんなに言っています。

令和の時代は、日本がグローバルをリードする

新田: さっきの、GABVの話に戻りますが、彼らは、Why、How、Whatなんです。やたら、Whyとか、Purposeって言うんですよ。Why、Purpose、これは「外」です。「どんな社会を創りたいのか?」ということですね。それに対して、How(どのように)、What(何を)、ここは自分たちのことです。じゃあ、こういう社会を創るために、自分たちは何をするの?と考える。

 日本は、みんな、HowとかWhatは、やるんです。ただ、その前提となっているWhyがないような気がします。WhyとかPurposeがはっきりすると、その流れの中で、日本人はHowとかWhatはつくれると思います。

 Whyが、「金を儲けるため」ではなく、「組合員の資産形成のため、組合員の幸せのため」になると、投信や保険だって、売り方が変わってきます。

 日本人は、もともと、「~道」というのが好きですよね。茶道とか、柔道とか。「~道」というのは、Purposeに近いところがあって、そこまで掘り下げるのが日本人のよさだと思います。日本人の中には、必ずありますよね、日本の社会をどうしよう、自分の町をどうしよう、と思う心が。そういう視点に立つと、似たようなことでも、全然違った形になってくるのです。

 令和の時代というのは、日本が世界をリードするようになるのではないか。日本ががんばらなくては、人類はダメになるんじゃないか、って思っています。

島村: 本当に、共感します。特に、「みんなで幸せでい続ける経営」のあり方が、これからの人類のスタンダードになることを願っているのですが、それをリードするのは、日本が一番可能性を持っていると思っています。日本から、「新しい経営のあり方って、こうですよね」という、新日本型の経営を世界に発信するタイミングが、今、来ているのではないか、と感じています。

 ぜひ、そこに、ご一緒させていただければと思っております。素晴らしいお話を、ありがとうございました。

よかったらシェアしてください
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

コメントは日本語で入力してください。(スパム対策)

CAPTCHA

目次