2018/04/24

「みんなで幸せ研」対談 第5回

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

<岩井 睦雄さん プロフィール>
「みんなで幸せでい続ける経営研究会」創設時メンバーのお一人
日本たばこ産業株式会社 代表取締役副社長 たばこ事業本部長
1983年 日本専売公社(現日本たばこ産業株式会社)入社
2003年 経営企画部長
2006年 取締役 常務執行役員 食品事業本部長
2011年 取締役 JT International S.A. Executive Vice President
などを経て、20163月より現職
一般社団法人日本アスペン研究所監事、一般社団法人ダイアログ・ジャパン・ソサイエティー理事
趣味は、読書、クラシック音楽鑑賞、シガー。

<島村 仗志さん プロフィール>
「みんなで幸せでい続ける経営研究会」共同代表(運営担当)
株式会社ウエイクアップ 代表取締役社長
ウエイクアップは、リーダーシップ、コーチング、組織開発の世界的な3つのブランドの日本パートナーであり、人や組織の可能性を最大限に引き出すことに力を注いでいる。
著書:「コーチングのプロが教えるリーダーの対話力 ベストアンサー」など

 研究会に参加したきっかけ

島村 仗志さん(以下、敬称略): 御社には、0期から入会くださって、大変お世話になっております。最初、この研究会の構想をお聞きになられたときの印象は、いかがでしたか?

岩井 睦雄さん(以下、敬称略): 私たちJTの経営理念に、4Sモデルというものがあります。お客様、株主、従業員、そして社会全体(地域社会や国際社会)という4つのステイクホルダーに対して、高い次元でSatisfactionを提供し続ける、ということを目標にしています。どれかだけでなく、トータルに世の中に貢献する、ということを理念としています。ただ、実際に会社を回していくのは、社員、そして関係しているパートナーの方々であって、その人たちが、そこで働く満足、幸せを感じないと、多分これは実現できない、とずうっと思っていました。なので、お話をうかがったときに、何らかの形でそういうことができればいいな、と感じました。

まあ、研究会の名前としては、「みんなで幸せでい続ける経営研究会」というのは、大上段だし、ちょっとあやしげだなあと・・・(笑)。でも、それをまじめに考えることをしないと、意味がないとも思いましたね。

研究会の趣旨には、興味がありました。大企業で、それを達成することの難しさ、というのは、会社にいて、ずっと感じていました。経営企画部にいるときに、専売公社からの文化、組織風土、事業構造すべてを変えていくということに取り組んで、ビジョンを創って浸透させたり、とかしましたし。いろいろやってきて、おそらく公社のときからは、かなり変わってきたと思うのですが、一方、なかなか変わらないものもあるな、ということも感じました。

非常にチャレンジングな課題だけれども、トライする価値がある、と思っておりましたので、この研究会に参加しました。

島村: 冒頭から、核心をついたポイントをいただいて、ありがとうございます。

研究会の名前のあやしさ、大上段にかまえすぎ、というインパクトは自覚しております(笑)。名前については相当ディスカッションを重ねまして、「幸せ」というキーワードをはずしてしまうと、何の会かわからなくなると思い、お腹に力を入れて、踏みとどまっています。

 ビジネス文脈における「幸せ」は、イキイキ・ワクワク

島村: ただ、現実的には、「幸せ」というところで、ご賛同いただけなかった場合もあり、現時点では、ビジネスの文脈において、「幸せ」と謳うところのチャレンジがあるのは事実です。

岩井さんは、これについては、どのようにご覧になっていますか?

岩井: 会社としての「4Sモデル」だけではなく、私自身が、たばこという会社を選んだ理由が、この事業の「人間らしさ」に惹かれた、ということがあります。別に、たばこだけではなく、そもそも事業というのは、人のためにやるわけで、「人が幸せに、笑顔になってもらう」のが原点ですよね。

例えば、ドトールの創業のとき、「本当においしいドリップコーヒーを、手軽な値段でみんなに飲んでもらえたら、なんていい世界になるだろう」ということが起業の原点だったと聞いています。

そういう、「人の幸せをつくる」人が、働いて疲れ切るのではなく、イキイキと働いて自分も喜びを感じる、そういう構造で、人を幸せにして自分も幸せになる、というのがビジネスの原点だろうな、とずっと考えておりました。

そういう意味では、「幸せとビジネスは違う」とか「ビジネスって厳しいところだ」と、「幸せになっちゃいけない」みたいに言われると、そうではない、と思います。

しかし、「幸せ」という言葉が、ちょっとスタティックで、フワッとしている、「みんなで仲良くしています」みたいなものに聞こえる、というところはありますね。

もっと、イキイキ、ワクワクしているという意味での「幸せ」―― 幸せの定義は、人によっていろいろあると思うのですが、企業の中で、ビジネスをしながら、自分自身も成長していく、それにやりがいを感じながら仕事に取組む、チームで何かを成し遂げて喜びを感じる、といった、ダイナミックな意味での幸せ、というふうに考えると、幸せとビジネスが結びつかないわけがありません。

島村: ありがとうございます。ビジネスの本質と、幸せの本質、双方は、当たり前のようにリンクしている、関係が深い、ということですよね。

岩井: そうです。そもそも、人がいなくてビジネスがあるわけもないし、ビジネスは人の社会のためにあるわけですから、「ビジネスの基本は、人を幸せにするもの」じゃなきゃいけない、と思います。

 大企業ならではのチャレンジとは

島村: それには本当に共感します。本来そうであるはずのものを取り戻す、ということがこの研究会の趣旨ですし、もう1つのポイントは、「大企業において」ということです。   大企業というのは、人間の知恵の粋を集めて組織化され、現代社会の中でたくさんの価値を私たちに届けてくれているわけですが、にもかかわらず、大企業ならではのチャレンジが生まれている、ということが特に今、語られ始めています。

これについては、どのようにお考えですか?

岩井: そうですね。0期でも、鎌倉投信の新井さんのお話などをきいて、みんなでディスカッションしたのですが、「幸せ経営」というのが、どのくらいの規模ならできて、どのくらいの規模を超えるとできなくなる、という境が、あるのかないのか。そこが1つのポイントのような気がします。

確かに、数人で起業して、それが30人、300人、1000人となっていくと、そのときどきで、マネジメントスタイルを変えざるを得なくなります。そもそも、組織は、規模によって、緊密になれる度合いが違うかもしれません。

ただ、そうであるとしたら、どういう形で、お互いが緊密である気持ちを持ち続けられるのだろうか、ということでしょうか。

例えば、京セラの稲盛さんの「アメーバ経営」は、単に独立採算で数字で人を追い込んでいくシステムではなく、そこから、自律的にその数字を見ながら自分たちが創意工夫をしていく単位というものをつくることで、あれだけの大企業になっても、そういうものがせめぎ合いながらやっていけるような仕組みを考えられています。そして、その根本は「従業員を幸せにする」のが究極の目標、という理念にかえってくる、ということがおありです。

だから、「大企業だからできない」のは言い訳に過ぎない、とも思いますが、とはいえ、どうやってその方向に持っていくか。単なる仕組みではないし、気持ちだけでもなく、どうやってその両方をうまくつなげられるのか・・・。

 研究会 0期から1期へ

島村: その意味では、この研究会が、それを考えるきっかけとして、こうやって名乗りを上げたこと自体に価値あり、と言えるようになりたいと思っています。

この1年半、ご参加いただいての印象、手ごたえは、いかがですか?

岩井: 0期では、全体フレームワーク、事例を吸収して、それをJTで実践するにはどうしたらいいか、という思いで聞いていました。どちらかというと、インプットでしたね。

1期になって、実践を本格的にやるにあたって、組織の中でそれを担当する部門が責任をもって参画すべきだと思い、人事部が窓口になるようにしています。彼らがここでヒントを得て、実践していくきっかけになればいい、と思いますので。

また、事業部サイドでいえば、人事が制度をつくったからやるのではなくて、事業の今置かれている状況、例えば、私どもで言えば、100年続いたシガレットから、大きく事業体が変わろうとしているという状況の中で、人事部門と事業部門のお互いの課題認識が絡み合って、そこからの実践につながることを期待しています。

島村: 0期のときには「幸せとは何か」ということや、幸せとビジネスの関係についてのディスカッションが多かったのですが、1期からは、会員各社様それぞれの課題意識に基づいたお取組と、やってみての振り返り、という「行動と学習」のサイクルになればいいな、と考えております。

そして、岩井さんを始めとする、錚々たる企業の経営者の皆さまが、これを志されて、実際にアクションをとられていることが、事例として積み重なって、次の世代の経営者に対して、経営の選択肢として提示できるようになることを願っています。

岩井: 0期のワークショップ実施のときに、「幸せ度アンケート」を一部の社員にやってもらいましたが、「幸せの4つの因子」のクセというか傾向、ここはできているけれど、ここは弱い、ということに気づいたのも、よかったですね。例えば、ほめることが苦手な組織なんだな、とか(笑)。

今までのモチベーション調査などとは違った角度で、自分たちが何ができていて、何ができていないか、ということが明らかになって、イキイキ、ワクワクする組織の状態、これは私なりの「幸せ」の定義ですが、そうなるためのヒントをもらいました。

島村: そういう意味でも、前野先生の「幸せの4因子」は、画期的な「発明」ですよね。「幸せ」の尺度ができて、それを測定することができるようになったのは、本当に素晴らしいことだと思います。

御社でも、さきほどの4Sに向かって、幅広いお取組みを展開なさっておいでかと存じますが、具体的には、どんなことをなさっておられるのですか?

 制度に血を通わせるコミュニケーションを目指して

岩井: 仕組みという点では、それなりに、たくさん入っているのです。ただ、それを頭で理解するのではなく、本当に肚落ちして、組織の全員がとしているか、ということが課題ですね。

一例をあげると、女性活躍を推進するための休暇制度などは、ずいぶん整備していますが、産休・育休中の人と、本当の意味で、どうやって会社とのつながりを持ち続けるか。例えば、ある種コーチング的になりますが、「せっかく子どもと一緒にいるんだから、それを活かした商品開発を考えたら?」というような、きめ細かい関わり方ができているか。それは単に、「社内報を送ります」というのとは、全く別の次元のことですね。

また、「産休で欠員が出る」ということを、積極的にチャンスとしてとらえるか、「もうちょっと、違う時期ならよかったのに」と思ってしまうか。制度をちゃんと設計して整備すればするほど、「制度があるから、仕方ない」になるなら、導入した意図とは逆になってしまいます。

先回の研究会での、(ダイヤモンドメディア社長の)武井さんの、ホラクラシー経営の話を聞いても、みんながそれぞれ事情がある中で、最適なことをするために、誰とどのように助け合うかとか、助けられた方もいつかお返ししようとかいう、制度的・金銭的なものではないやりとりができる組織にしていくということが、本当は一番の近道なのかもしれません。

1月からの新体制では、いろんなレベルで、いろんなコミュニケーションをとっていこう、ということを、やり始めています。しかし、いま難しいのは、コンプライアンス系ですね。「家庭の事情」をうかつに訊くとパワハラになる可能性があります。でも、それがわかっているから助け合える、ということもあるので、そこらへんが、せめぎ合いですね。

大きな企業になればなるほど、そういう仕組みとかコンプライアンスによって「べからず集」ができます。そうなると「バリアを張った」、守りながらのコミュニケーションになって、本当の意味で、家族のようなコミュニケーションはやりにくくなっています。

島村: 岩井さんの直面しておられる課題というのは、まさに最先端のことですね。

個人レベルなら、「よくコミュニケーションをとる」というのは、当たり前のことですが、それを組織として展開しようとすると、いろんなチャレンジがあるのですね。

 組織の中に、「信頼のベース」をどうつくるか

岩井: まずは、信頼のベースをどうやって作るか、ということが第一歩になると思うのです。「完全に家族」ではないが「家族のようなもの」と、職場とを、切り分けないですむ組織の大きさ、というものは確かにある。

ただ、そこからもう一歩抜け出して、「職場なのだけれど、そういった家族的な面を担保する」、それくらいの単位のものの自律的な集まりとして、大きな組織が構成される、という形が理想的なのかな、と思っています。

ホラクラシーは、1対1万では無理ですね。であれば、いくつかの小単位がそれぞれごとにホラクラシーで、また、それぞれの単位どうしも、ホラクラシー的に動けるような組織に変わっていくことができれば、おそらく、大企業であっても、今とは違う形で、人がイキイキ、ワクワク、幸せに働きながら、成果を出したり創造性が高まったり、というふうになるのではないか、と考えています。

島村: 今お伺いした岩井さんのビジョンで思い出すのは、0期でゲストにお迎えした、法政大学の坂本(光司)先生とのディスカッションです。

「中小企業で理想的な経営をやっておられるところがあることはわかったが、大企業では、どうやったらいいか?」という質問に対して、坂本先生が「どんな大企業でも、1つの課、部は、中小企業と同じ。課長、部長が、自分の部門を幸せにするんだ、という思いを持って、その部門を変えていけば、組織が変わる」と答えておられました。 

先日、坂本先生の「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の授賞式に参加してきたのですが、どの受賞企業の経営者も「社員は家族だ」と言っておられて、社員の方も、社長と言わず、「親父」と呼んでいたりする(笑)。これは、日本的経営の素晴らしさだと思うのです。

これが大企業となったときに、「家族ではないけれど、家族的な、心理的な安全が確保されている」関係性をいかに構築するか、というのが、これからの大企業経営の1つのキモになってくるかもしれませんね。

岩井: そうですね。グローバルに展開していく中で感じたのですが、アジアリージョンでは、家族的ということを強く出して、「自分たちは、同じ目的をもって展開している、家族みたいなものだ、みんなで助け合うんだ」というアナロジーが、響いています。アジアだと、それがスーッと入っていきます。

しかし、グローバルでそれがDNAになっているかというと、他のリージョンでは、「いやいや、オレたちは、ファミリーではなくて、ビジネスでしょ」と言う(笑)。

ただ、中東とかアフリカでは、絆というか、単にビジネスライクな関係だけでなく、「人」を信じるというところがあります。「こいつが言うから・・・」と、いったん信じれば、その人に賭ける、という人と人とのつながりを大事にするカルチャーがあります。西欧社会でも、もちろん、それはあって、度合いの違いだけだと思いますが。

より「合目的的な」目的に向かって頑張ることがその集団にとっての求心力になるカルチャーと、みんなで助け合うことで全体のパフォーマンスが上がるアジア的なカルチャー、それぞれで、経営の設計の仕方が変わるのかもしれません。

島村: そうですね。西欧的なものには、素晴らしいことがたくさんある、ということは十分認めた上で、なのですが、「ビジネス」といったとたんに、つながりとか、感情的なものが排除される、というのは、ちょっと・・・。いや、西欧だけでなく、私たち自身も、「社会人になるということは、仕事の上で感情にアクセスしないことだ」という変な薫陶を受けてきたのかもしれません。

岩井: 社会をみるとき、IntegrityIntimacyという大きな2つの軸によって分けられる、という話があります。

Integrityというのはルール、厳密に人格と発言とをちゃんと切り分けて、ルールに則ってやっていけるような社会。一方、Intimacyは「お父さんだから敬いなさい」というような社会です。そのような違いは、大きな軸としてあるのだと思います。

でも、どちらにもあるのは、信頼というベースです。

よく、「日本語はフワフワしているが、英語はストレートだ」みたいに考えている方もいますが、英語でも、前置きとして「私が間違っているかもしれませんが」と言ってから、「〇〇ではありませんか」という表現をします。そういう、まず信頼があった上で、より厳格に何かを戦わせる社会と、「人」に重きを置いてそこまでは戦わない社会がある、と考えたほうがいい、と私は思っています。

その信頼のベースを、まず小さな単位で作っていきながら、それをどう連携させるか。そのタテ・ヨコの関係が、それぞれの人が幸せになるというだけではなく、会社のパフォーマンスにもすごく影響している、と思っています。タテの風通しだけではなく、ヨコの風通し、それぞれの階層の風通しが大切だと感じますね。

島村: コミュニケーションは、風通しのよさ、ということですね。グーグルの調査(プロジェクト・アリストテレス)でも、「生産性に一番影響するのは、心理的安全性だ」ということが明らかになっています。

上司から「寄り添おうと思っているよ」と言われたときに、部下が「本当に寄り添って大丈夫だ、本音を吐露しても大丈夫だ」と思える、心理的安全性がいかに確保されるか、ということが、洋の東西を問わず、これから、もう一つ上の次元でビジネス展開するための、進化の余地かもしれません。

コーチングでは、「この人は、自分で答を見つける力を持っている」と信じることが大原則になっていますが、それは、私たちがこれからビジネスの中で展開するコミュニケーションのクオリティを上げていく、1つの切り口になりうる、と感じています。

 「人はみんな違っている」という認識から出発する

岩井: そうですね。そしてそれは、「人はみんな違っていると認識する」ことでもあるという気がします。

うちの会社でも、ベテランしかいない部署に、新入社員が一人ポンと入ってくる。同じ日本人で、専攻分野も似ていて、当然、「同じだろう」と思い込んでコミュニケーションすると、「そんなこと、親にも言われたことない」と(笑)。そういうことが起こっています。

今おっしゃったように、それぞれの人には、「自分で考えて行動する力がある」ということを前提としながら、その違いを分かり合うためのコミュニケーションが、きちっとなされていくことが、大切ではないかと思います。

海外での経験を振り返ると、私も、いかに日本的な考えを持っているかに気づくことがあります。自分の意見にガーっと反対されると、自分自身が攻撃されているような気になりますが、相手は全然そんなつもりじゃない。「お前の言ったこの意見に対して、自分は反対しているんだ」と。でも、こっちとしては、「お前はオレをばかにしてるのか!」と思っちゃう。

自分が、日本的な中で育ってきたことを、痛感させられましたが、そこらへんのことがわかってくると、すごいしかめ面して批判的なことを言ってきたとしても、「その人は、オレを攻撃しているのではなくて、この意見に批判的なだけだ」と思って、気が楽になりました。

島村: 逆にいうと、人間として信頼し、尊重しているからこそ、意見を戦わせることができるわけですね。そういうことを、海外でがんばっておられる日本のリーダーにお届けしたいですね。私自身、近日中に、海外との交渉事があるので、それを胸に、元気にやり合いたいです(笑)。

人間的な信頼のもとに、意見を交換し合う、というのは、建設的ですよね。「自分と同じではない」という前提で、ちゃんとコミュニケートする、という・・・。

岩井: その人が言ったことは、その人の文脈ではきっと正しいことで、それが自分に違和感があるとしたら、「間違った意見」だと思うのではなく、「その人の中では、なぜそれが正しいのか」を探り合っていく、そのようなコミュニケーションをお互いにとれる。また、そのような風土をつくっていく。

 コミュニケーションを大事にするリーダーを育てる

岩井: それが、先ほどの、同じ日本人であっても起こりうるハラスメント系の問題にも有効なのではないかと思います。信頼関係があれば、部下の方から「実は、母が病気で」と自発的に言ってくれる。そしたら、それを踏まえて、「職場で遅くならないようにするためにはどうしたらいいか」をみんなで考えたりすることができる。

じゃあ、そういうリーダー、上司を、1000人つくれるか、ということが、次のチャレンジになります。

島村: 今おっしゃっていることは、研究会が標榜している「みんなで幸せでい続ける経営」を、具体的に、一人ひとりが、現場で何から始めればいいか、ということの大きな示唆になります。そのようなリーダーを、御社に限らず、世の中の企業、そして社会の中で、どうやって育んでいけばいいのでしょうね?

岩井: いやあ、難しいな、と思っています。まず、それがリーダーの仕事の1つだという認識が必要になりますね。

当社では、半年に1回、上司が部下にフィードバックして、評価について話し合う機会を設けていますが、この半年のサイクルだけでいい、とは思っていません。1週間に1回とかのサイクルでフィードバックをくるくる回しながら、お互いにいろんな話をしているうちに、さっきのような家庭の事情なども、自発的に出てくるようになるのだと思います。

コミュニケーションの仕方というと、「一人ひとりがそういう心を持って、コミュニケーションしなさい」といった、標語みたいなことになりがちですが、そうではなく、もっとシステマティックに、コミュニケーションをとること自体、また振り返る自覚を持つこと自体がビルトインされている必要があるでしょう。

それがないと、ずっと毎日KPIに向かって叱咤激励して、目標を達成する・しない、ということになりますが、そうではなくて、それを通じて人を育てたい、人の可能性をもっと発揮させたい、そのために、お互いを知り合うコミュニケーションをしていくんだ、という仕組みをつくることが大切なのかな、と思います。

島村: 会社としてコミュニケーションを奨励していても、組織の仕組みそのものが、結局はKPIの達成度合いで評価する、ということになっていたら、コミュケーションの浸透は、なかなか難しいということですね。

 IoTのイニシアティブで、イキイキ、ワクワクをつくる

岩井: もう1つあるのが、コミュニケーションをとるための時間をつくらなければいけない、ということですが、そのために、IoTとか、そういうテクノロジーの力を借りればいいと思っています。管理職って、やることが一杯あってそれに追われていて、おまけに何かちょっとでも不祥事が起こったら、また一律に管理表のチェックが増えるとか、どんどんやることばかり増えているのです。

それを、例えば、超勤のウォーニングはAIがちゃんと出して、というようにするだけでも、仕事が減る。それによって、コミュニケーションの時間を増やす。そのように、いいサイクルをつくるために、IoTのようなものを活用して、生産性を上げる。そして、生産性を上げた分を、「もっと売ってこい」ではなくて(笑)、コミュニケーションの活動にもっと割り当てる、ということが大切かな、と思います。

島村: 実際に、そういう形での、IoTAIなどの導入は、すでに進んでおられるのでしょうか?

岩井: 始まったばかりですが、私が担当しているたばこ事業で、IoTのいろんなイニシアティブが、この2年ほどで、生まれつつあります。ロボティックスで作業を自動化するとか、マーケティングのお客様データベースを活用するとか、よりよい予測システムを自動的に生成するとか、いろいろな取組みが生まれています。そうやって時間が捻出されることで、コミュニケーションがもっととれるようになればいいな、と思っています。

このようなイニシアティブにあたっては、組織をつくってやるのではなくて、若手とか「それをやりたい」と思っている人を募って、組織横断的なプロジェクトにしています。この間、中間報告をしてもらって、みんなで食事に行って、ということをやりましたが、みんなイキイキしていましたね。やっていく上で、もし、組織の壁などがあるなら、私が支援すればいい話だと思っておりますし、やっていくと、また、「こんなことをしたい!」ということがどんどん出てくるので、それを応援します。

これは、「誰が責任者で、何をゴールにして」という明確なプロジェクトにはしていなくて、イニシアティブ的にみんながやっていって、その人たちがやっているのがいいな、と思ったら、「じゃあ、お前もやってみたら」と、そういうやり方で進めていこう、と考えています。

島村: 素晴らしいですね。おっしゃったように、やわらかいイニシアティブが、ポコポコでてくる、というのは、企業の規模を超えた可能性が育まれますね。そういうイニシアティブを立ち上げられた岩井さんは、さすがだと思います。

岩井: それは、私自身が、世の中の今の流れについていけないと・・・(笑)。たばこ事業というのは、「閉じて」いるところがありまして、TV広告宣伝ができないなどマーケティングに制約があったり、たいていのことは自分たちでやってしまう完結した組織なので、どうしても、外に目を向ける機会が少なくなります。世の中これだけIoTが進んでいて、いろんな使えるところがある。

事業として、世の中から取り残されないために、ということで、始めたのですが、結果として、いろいろな自主的なイニシアティブが出てきました。それは、やってみて、結果としてわかったことなのですが。

 「やりたい」と立ち上がった人を応援する

そういう思いがあるところを、どうやって育むかが大切だと思っています。また別のところで、営業などの若い人たちが中心になってやっている活動もあります。

One Japan という、企業横断の組織がありますが、それに参加するメンバーの下部団体として、JT内で、自発的にネットワークつくって、いろいろ勉強会やワークショップをやったりしています。自分たちを高めていって、自分たちで変革を起こしていこう、という若手の姿を見ていると、勇気づけられますね。

島村: 「革新は辺境から生まれる」という言葉もありますが、人間が素直に「やりたい、やってみたい」と思える環境を、どう届けられるか、ということが大切ですね。

そういう意味では、さっきおっしゃったイニシアティブは、心理的安全がある中で、「いいから、やってみなよ」ということで立ち上げられたもので、そこから生まれた輝きが、まわりにも伝播する、という・・・。これは、企業の規模を問わず、みんなが活用可能な取組になりますね。One Japanというのも、そういう志でできたと聞いておりますし、御社の中でそういうチームができておられるというのは、心強いですね。

岩井: まさに、彼らが勝手にやっているのですが、時々のぞいて、「何やってるの?」と声をかけて、一緒に食事に行ったり。それによって自分も刺激を受けますし、そういう思いを汲み上げて、水をあげないと、枯れてしまうこともあるので・・・。

そうやって若い時に自主的にいろんなことをやっていた人がマネジメントになれば、みんながどうしてほしいか、という気持ちがよくわかるでしょうし、そういう人が少しずつ増えていけばいいなと思っています。

人材育成とよくいいますが、「育成」なので時間もかかるし、でも、それをあきらめちゃいけない。研修で「人材育成」を教わるのではなく、自分たちで、自主活動という形で学ぶ。

また、プルームテック(加熱式たばこ)のような新しい事業の現場で、人に言われたことをやるのではなく、全く新しいものだからいろんなやり方がある、それを自分たちでやっていこうとする人たちを応援していく。そしてその経験を持つ人たちが、また、次の世代をつくっていく。そういういいサイクルをつくっていくことが、結果として、「幸せ」につながり、イキイキ、ワクワクの組織をつくる、ということかと思います。

島村: お忙しい岩井さんが、若手の方々とも時間を持ち、実際にそういうアクションをとっておられる。どこから、その思い、エネルギーが出てくるのでしょうか?

岩井: だんだん年を取ってくると、伝えたいものがありますね。会社の中のDNA、目に見えない価値観も、ちゃんと伝えないと途絶えます。

また、自分が若手に教えてもらえることもあります。テクノロジーの面もありますし、同じような世代の同じような役職の人たちばかりと付き合っていては、わからないことがいろいろあると思っています。社内、社外、それからNPOとか、自分の仕事と距離のある人の話を聴くと、刺激になりますし、好きですね。

島村: 岩井さんが接点をもってくださった若手は、ほんとにエンパワーされますね。

これこそ経営、という真髄をうかがった気がします。まさにそれが御社のDNAを、若手にも、また会社という枠を超えて、社会全体に広めるということなのですね。

岩井: 昨日、当社の入社式で、グループ会社を含めて、240人くらい新人を迎えたのですが、夜の歓迎会では、新入社員2に対して、社員が1の割合で入って、いろいろ話すのです。その意味では、面倒見のいい会社だというのは、うちの特長ですね。まあ、昔のやり方で「面倒見がいい」と、時にパワハラといわれてしまうので、気をつけないといけないのですが(笑)。

島村: でも、実は、これからの時代は、そんなおせっかいが大切だと思っています。こちらの「正しさ」を押し付けるのではなくて、「私は、あなたがどう思っているか、聴きたい」というおせっかいが、重要だと思うのです。

AIとかIoTの持ち味と、人間だからこその持ち味、の切り分けといいますか、論理的思考プロセスとかデータベースのボリュームとかは、IoTたちに任せておいて(笑)、人間ならではのコミュニケーション、相手の正しさを尊重しながら、しっかり向き合っていく、ちゃんと聴いていく。そこに、ビジネスの進化の余地があるような気がします。

 進化した“たばこ部屋”をつくろう

岩井: 昔は、たばこ部屋が、そんなところだったよね、という話もよく聞きますね。役職や組織の壁を離れて、「最近、どうよ」みたいな話ができる。ちょっと一息入れて、鎧を脱いで、コミュニケーションができる、そういう機能は大切だと思います。

まあ、たばこを吸いに行く時間は生産性が下がっている、というようなことを言う人もいるのですが、私はそうは思わなくて、たばこを擁護しているわけではないのですが(笑)、そうやって一息入れる方が、生産性も上がるし、正式な会議では「〇〇部と△△部の立場としては」という話が、「まあ、これくらいにしとけばいいんじゃないか」みたいに話し合われたりとかいうこともあります。

ホワイトカラーの生産性アップ、創造性のためには、メリハリが大事で、フォーマル・インフォーマルの使い分けが有効、ということでしょうか。

今までのたばこ部屋である必要はなくて、進化形のたばこ部屋ができるといいのかもしれません。

たばこというのは、人間らしいひととき、心の豊かさを提供するものだ、と思っています。それをつくっている人たちが、心豊かでなくて忙しいだけだったら、それこそダメですよね(笑)。

島村: 以前は、確かに、難しい話でも、たばこ部屋で、ちゃんといい落としどころがつくられていましたね。人間、ちょっと力を抜いて話しているときに、心理的な安全と、家族的なコミュニケーションができるのかと思います。それが、結果として、個人や組織の生産性につながっているのであれば、これから、また進化したたばこ部屋が見直されるのかもしれませんね。

岩井: これからも、研究会にはなるべく、積極的に参加したいと思っています。「大企業だからできない」というところに、一筋の光でも入るように、模索を続けたいですね。

そのためには、インプットを持ち帰るだけでなく、理論的なフレームワークと、自分たちが実践したことの循環を大切にすることかと考えています。

島村: 研究会に参加しておられる方々も、いろんな考えをお持ちです。お一人ひとりがどうしたいのか、ということと、研究会として何をやりたいのか、ということについて、人間的なコミュニケーションを重ねていきたいと思います。

本日は、このような素晴らしいお話をうかがいまして、本当にありがとうございました。

関連記事

コメントを残す

*

CAPTCHA