2018/02/09

「みんなで幸せ研」対談 第3回

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<田中 雅子さん プロフィール>
「みんなで幸せでい続ける経営研究会」創設時メンバーのお一人
古河電気工業株式会社 執行役員
戦略本部副本部長 兼 同本部人事部長
古河電気工業株式会社入社後、主に人事・総務畑を歩み、その後秘書室長、CSR推進本部管理部長、法務部長を経て2015年執行役員として働き方改革プロジェクトを担当、2017年10月より現職。
日本ホスピタリティ・マネジメント学会理事。週末の気分転換はヨガ。

<島村 仗志さん プロフィール>
「みんなで幸せでい続ける経営研究会」共同代表(運営担当)
株式会社ウエイクアップ 代表取締役社長
ウエイクアップは、リーダーシップ、コーチング、組織開発の世界的な3つのブランドの日本パートナーであり、人や組織の可能性を最大限に引き出すことに力を注いでいる。
著書:「コーチングのプロが教えるリーダーの対話力 ベストアンサー」など

研究会に参加したきっかけ

島村 仗志さん(以下、敬称略): 「みんなで幸せでい続ける」研究会にお入りくださったきっかけは、どんなことでしたか?

田中 雅子さん(以下、敬称略): 実は、コーチングからのご縁なのです。CTIのコーチングプログラムを応用コースまで受講したのですが、自分の考え方やあり方を整理する上で、とてもインパクトがありました。その理念に共感を覚えていましたので、今回、この研究会を紹介頂いたときに、いいな、と思いました。

そして、このような思いを持っている人にもぜひお会いしたかったですね。以前、ウエイクアップのイベントで、三菱鉛筆の都丸さんのお話を聴いていたことも、研究会に入るきっかけとして、大きかったと思います。

前野先生は、この研究会を通じて初めてお目にかかりましたが、目指しておられることが、心情的にもとても合うと感じました。

また、古河電工は、元々、人を大切にするというDNAを持ち、世間にお役に立つ、ということにこだわりを持っている会社なので、親和性がある、と思いました。

他の企業様と一緒に、「会社での幸せ」とは何だろうということをディスカッションするのも楽しみでしたし、それぞれの企業様がどんなことをやっておられるのか、見てみたい、という気持ちがありました。

島村: 古河電工という会社の「人を大切にする文化」は、ゆるぎないものとして、ずっと育んでこられたものなのですね。

田中: 新入社員の人たちに聞くと、“人”に惹かれて入社を決めた、と言う人が多いです。採用のときに会った人たちが魅力的で、関係性を大事にしている、ということが、会社自体の魅力になっているようです。

島村: 日本には、いわゆる“長寿企業”が多く、御社もその1つですが、そういう会社では、人を大切にすることが当たり前ですね。それだけ、企業としての社会的責任が大きい、ということでしょうが、それが、ビジネスの進化形、資本主義の進化形として、もっともっと世界に定着していけばいい、と思っています。

その意味で、御社の存在そのものが、これからの社会にとっての“希望”だと思いますし、その御社が研究会に入ってくださったのは、本当にありがたいことです。

 最初は、「個人」としての参加だった

島村: 最初は、田中さん「個人」として、研究会にご参加くださったのでしたね。

田中: ちょうど執行役員になったころで、経営全体に関わる活動に参画するようになっていました。自分の考えていることをいろんな人に伝えたい、と感じていたときに、「思いのある人に、研究会に入って頂きたい」と言われて、グっときました。同時に、他の会社の、そういう思いのある方にもお会いできたらと思いました。

ただ、「幸せ」について会社で話すのは、最初は正直、すごくとまどいがあって、会社としてではなく、個人としての参加ということにいたしました。

島村: 「幸せ」という言葉をビジネスの現場で出すことの、えも言われぬ抵抗感、というのがありますね。研究会に入るときには、どなたかにお諮りになったのですか?

田中: 特に相談などはしませんでした。当時、働き方改革のプロジェクト長をやっていまして、組織のカルチャーを変える、ということも目指していました。ある意味、自由に動けましたので・・・。

会社の成果と個人の人生の充実の両立を図る、ということを、働き方改革の目指すものとして掲げていて、それは「幸せ経営」そのものではないか、と感じたのです。

また、前野先生のアプローチが、科学的でデータに基づいたものであることも、うちのような技術屋の多い会社にとっては、今後の展開のメリットになる、とも思いました。

島村: 御社での働き方改革は、今、どのようなステージなのですか?

田中: 本格的に取り組んで、そろそろ3年になるのですが、当初の環境とは変わってきています。始めたころは、一部の部門の構造改革もまだ終わっていず、閉塞感がありました。今は業績も向上し、いろいろな人がイキイキと活躍でき、今後の成長基盤をつくるための活動として、組織風土改革とワークスタイル変革、という2本立てでやっています。

当社では、職場によって働き方が多岐にわたるので、自分たちで自主的に考えてほしいと思っており、「自分たちの課題を、自分たちで解決していく」活動を推進しています。

この活動に共感し、職場から自主的に手を挙げて一緒に推進してくれる「サポーター制度」というものがあり、お互いの情報交換で、横のつながりも強くなってきました。

従業員サーベイの結果でも、「効果が出ている」と「(効果を目指して)やっている」という声を合わせると65%になっています。自分たちが「働き方改革」をやり始めてから、政府などが「働き方改革」と言い始めたので、「あ、それが世の中の流れなのか」とみんなも実感しているようです。

次の3年では、各部門から、「その動きが、ビジネスにこんな役に立った」というような成功体験を、小さくてもいいから、どんどん積み重ねて発信していく、ということをやりたいと思っています。

島村: 「幸せ」というのは、人から与えられるものではなく、自分でつかみ取るものなので、その意味でも、自分たち自身が「どうなりたいのか、どう改革したいのか」を明確に意識することが大事ですね。

(インタビューに同席していた、土井 晴子さん(働き方改革プロジェクトチーム)から)

土井: 田中の存在は本当に心強くて、働き方改革プロジェクトの「広告塔」みたいな感じです。スタートした当初は、「また何かをやらされるの?」「そんなこと必要なの?」という社内からの風当たりもありましたが、田中の持前のやわらかなキャラクター、「ニコニコ攻撃」(笑)で、どんどん前進していったという感じです。

田中: 最初、地ならしの意味で、隔週、働き方改革のニューズレターを作って、役員層に出したりしていました。他社の事例や、社内でこんな話が出た、とか支社でこんないい活動があったとか、コラム風にまとめて・・・。そのときは直接の反応はそれほどありませんでしたが、後になって、「そういえばあの時の話で・・・」というようなことを言われることが結構ありましたね。

島村: 素晴らしいですね。その、田中さんの「志」の原動力、エネルギーは、いったいどこから湧いてくるのでしょうか?

田中: 思い返せば、2007年の、当社の「グループ理念」づくりのプロジェクトの事務局をやったことがきっかけだったでしょうか。

当時は、ITバブル崩壊の後で業績は落ち込んでいるし、ビジョンは浸透しないし、いろんなところでほころびが出てくる、という状況でした。

そのとき、秘書室長になったのですが、秘書室としての価値、秘書室ができることは何か、ということを一所懸命に考えました。そのころコーチングやシステム・コーチングを学び、他社の取組みも聞く機会がよくあり、「会社を変えていくには、やっぱり、みんなで話し合うのが一番だ」との考えに至りました。

まずは、役員がもっとフランクに「この会社をどうするのか、自分たちの目指すものは何か、自分たちはどうありたいのか」を考える場、本音でそれを話し合える場をつくりたい、と思い、経営企画と一緒に提言したのです。社長も賛成してくれて、役員合宿が実現し、それがきっかけとなって、「グループ理念づくりプロジェクト」がスタートしました。

そのプロジェクトで、基本理念、経営理念、行動指針が創られ、そして経営もV字回復を果たして、業績向上へとつながっていったのです。

初めて「古河電工グループ総合技術展」を開催したのもその頃です。古河電工という会社は14の事業をもち、3万点の製品を作っています。それを見て、お取引先、お客さまも、当社の広範囲な事業・技術に驚いておられました。

島村: そういうことがおありだったのですね。本当にすごいことです。

田中: その経験から、「自ら動くことで、道が開ける」ということを実感し、また、そうすることで、協力者が自然に増えていきました。

職掌以外のことにも、身体が動いちゃうんです。「これ、誰がやるの?」と思ったら、「じゃあ、私がやらなくちゃ!」と・・・。一回、味をしめると止まらなくなる(笑)。もちろん大変なのですが、そのサイクルが楽しいんですね。

やらされ仕事じゃなくて自分が動くと楽しいんだよ、そういう楽しさが成果につながるんだよ、とみんなにも知ってほしいと思っています。

島村: それが、田中さんの根本を支えておられるのですね。

田中: そのころ学んだ、コーチング、システム・コーチングや、ファシリテーションによって、相手とどう関わっていくかのスキルを身につけました。

それが、対話をすること、人と向き合ってその悩みを聴くこと、という私の基本的なスタンスにつながっています。各職場の人たちの話を聴くと、必ず気づきや、モチベーションが生まれ、エネルギーが沸いてきます。特に現場の職場長・作業長さんの話を聴くと、本当に「しっかりやらなきゃ!」と思います。これが、普段の会議となると、感動がないのですが(笑)。

島村: 田中さんが、目の前の人が何を感じ何を考えているかに、しっかり耳をすませておられるということが、よく伝わってきます。

 「みんなで幸せ研」0期を振り返って

島村: 田中さんは、研究会の立ち上げ時期、1期の前の「0期」からメンバーでいらしたわけですが、0期の活動で、印象に残っているのは、どんなことですか?

田中: まず、前野先生の、シンプルかつ体系的な、幸せについての研究ですね。「幸せ」を伝えるにあたって、実務をやっている人にもわかりやすく、説得力がありました。

メンバーでもある都丸さん(三菱鉛筆)のお話ももちろんですし、宮坂さん(ヤフー)が、「お客様にはサービスを、社員には幸せを提供することが会社の仕事です」と言い切られ、人事の仕事も、シンプルに「従業員の才能と情熱を解き放つ」ことならなんでもやっていい、と言われたのを聞いて、いろんなヒントを得ました。

また、ゲストスピーカーの皆さん、例えば、新井さん(鎌倉投信)、坂本先生(法政大学)などのお話も、毎回、驚きで、「こんなことが、世の中にあるんだ!」と感じ入りました。

島村: 0期、という立ち上げ時期の、わけの分からないときから、こうやってご一緒につくってきてくださったという、当事者意識と、温かいお気持ちに、改めて、感謝です。

田中: 0期の後半に実施した、「幸せ実践篇」のトライアル*を、社内で実施したのも、大きかったですね。

「幸せ」に関する3つのワークショップをパッケージとして、20数人の社内有志メンバーに受けてもらったのですが、その実施にあたっては、当時の人事部長にも話しましたし、人事部以外の職場の人たちにも声をかけて、「やってみたい」という人たちが集まりました。

私自身も3つのワークショップに参加したのですが、楽しかったですね。どちらかというとまじめで“お堅い”当社の社員たちも、こんなに盛り上がるんだ、という発見がありました。

こうやって、「何でもやってみよう!」というトライアルができるのも、この研究会ならでは、と思っています。

*注:「幸せ実践篇」のトライアル
「ハッピーワークショップ」(前野研究室)、「マインドフルネス」(荻野淳也さん)、「TLC(The Leadership Circle)ワークショップ」(ウエイクアップ)という、それぞれ2~3時間のワークショップを、3回にわたって、参加企業各社の社内で実施し、その前後の参加者の「幸福度」を測定した。

 「みんなで幸せ研」が、社内で認知されるまで

島村: 昨年9月に、この研究会について、前野先生が慶應義塾大学からプレスリリースなさいました。そのときに、古河電工様も一緒に、「会社としてこの研究会に参加している」というプレスリリースをしてくださったのですよね。とてもありがたかったです。

田中: 研究会について慶應義塾大学からプレスリリースする、ということを聞いて、思い切って、社長に「実は、私、こんな研究会に入っているのですが、次期は、会社として入りたいのです」と話を切り出してみました。社長は、4月に就任した小林敬一なのですが、なんと、思いがけない答が返ってきたのです。

社長は、「それはいい。自分の経営哲学とも合致している」と、O.K.してくれたのですが、同時に、次の2つの条件を出したのです。

1つめは、古河電工としても、きちんとプレスリリースして、この研究会に参加していることを説明すること。
2つめは、研究会に単に参加するだけではなく、社内で、きちんとした活動にすること。

それを聞いて、内心、「大変なことになった」と思いました。今まで、社内では何も言っていなかったのに、プレスリリースするとなると、社内関係部署にも伝えないといけなくなるし・・・(笑)。

島村: 本当に、素晴らしい社長様に感謝です。「みんなで幸せ研」のHPに、御社のプレスリリースも掲載されているのを見て、「あ、古河電工さんもやっておられるのですね」と、何人もの方から言われました。

田中: 本当に不思議な力というか、シンクロニシティが動いているのを感じました。

社長自身もリーダーシップを発揮していろいろなことを変えようとしています。
数値や株主(だけ)を見る経営から、当社がずっとやってきた、幸せとか社員を大切にすることを含む「見えないものを大切にする経営」が評価される時代になってきたのかもしれない、と先日、社長とも話したことでした。

「幸せ」というと、ともすると、ゆるい、甘い、と言われ、「それで会社が儲かるのか」という批判が出ることがありますが、業績と共に、「幸せ」もないと、会社が持続的に成長しない、ということをちゃんと説明することが大事ですね。

そして、「幸せ」とは、会社が与えてくれるものではなく、自分自身が“これだ!”とつかんでいくものだ、ということも伝えていきたいです。

島村: おっしゃる通りです。

田中: そして、これも、偶然だと思うのですが、研究会が0期から1期になるタイミングの昨年10月に人事部長になりました。働き方改革プロジェクト長として今まで言っていたことを、浸透、定着させ、制度的にも反映させて、全社員に発信していく、という立場になったのです。

「プレスリリースした内容を言った人が人事部長になったのだから、それを実行しなさい」

というメッセージを受け取ったような気がしました。

島村: 見事なまでに、必要なことが必要なタイミングで起きていますね。

 従業員サーベイの指標に、幸せ度を導入する

島村: 今度、御社の従業員サーベイに、「幸せ度」を入れる、とお聞きしています。

田中: もともと、当社は、社員の満足度は高い会社なのです。でも、もっと、ワクワクとか、チャレンジングなところを伸ばしたいと思い、前野先生の「幸せの4因子」の枠組みを使ってみよう、と考えました。他社との比較、ベンチマークもできますし、研究会の中でも、お役に立てる接点が生まれればいいな、と思いまして。

島村: 満足度というのは、ある意味では、「会社が、何をしてくれるの?」という受け身的なものになりかねません。それに比べて、幸せ度というのは、「自分が、意図的に幸福になることを選択する」という、能動的なものですね。

会社が社員一人ひとりの人生に意を用いることは大切ですが、それだけではなく、社員を「受け身にさせておかない」こと、それが実は社員を信じることにつながるのだ、と思っています。

田中: 全くその通りだと思います。従業員サーベイで「幸せ度」をたずねるというと、「なぜ、社員の内面、一人ひとりの人生にまで立ち入るんだ」という批判はあるかもしれません。ただ、結局、働き方改革でやっていることも同じで、社員のプライベートの充実も応援することで、いい成果につなげようとしているわけです。

ある方が、「どの会社の人事も「働く環境をこう整備します」とは言うが、従業員がどうやったら幸せになるかを教えてはこなかった」と言っておられました。

我々が今、大切にしている、創造力とか開発力とかは、内発的に出てくるもので、「やったらご褒美がもらえるから」ということではありません。キャリアにしても、上司と部下でちゃんと話して、「自分はこうしたいんだ」という自律的なキャリア形成をしてほしいですし、ワークライフバランスにしても、単に権利を主張するのではなく、「会社に貢献するために、こうします」と言う。能動的に「幸せになる」ということは、そういうことすべてにつながっていると思います。

島村: 自律的なキャリア形成をなさってきて、内発的動機づけのかたまりのような田中さんがおっしゃると、説得力がありますね(笑)。ご自身の志のもとに、こうやって結果を出し続けていらっしゃるのは、素晴らしいと思います。

会社が、社員一人ひとりの「幸せ」にまで思いを致す、ということについては、今は反発もあるかもしれません。ただ、もう少ししたら、それが当たり前になるのではないか、気がついたらそれが最先端になっているのでは、という気もしています。

AIが発展すればするほど、人に対する意識が高まると思っています。「人」が誰かに動かされるのではなく、自ら動くことによる生産性向上を考えるとき、「幸せ」ということが、キーワードになりますね。

田中: 「幸せ」という言葉に対する反応は、世代間でも違うような気がします。今の30代、40代の人は、そう違和感はない感じです。

島村: 「あなたの幸せはこれだ」という押しつけの幸せではなく、「あなたの幸せは何?」という対話を重ねることが大切かと思います。

そういう「目に見えないものを大事にする資本主義」を、まず日本で形をつくって示せれば、世界に対して説得力が増しますね。その最先端を、御社には担って頂きたいと思います。

田中: 能動的、主体的な幸せ、という言葉を意識して伝えたいですね。「幸せとは、〇〇である」というRigidな定義ではなく、それぞれの企業の言葉で「幸せ」を考えていくと、今までやってきた、いろんなこととつながるような気がします。

幸せな人の方が生産性が高い、ということもお聞きしましたし、何かを達成したら幸せ、待遇がよくなったら幸せ、ではなく「先にまず“幸せになっちゃった”者勝ち」、と前野先生もおっしゃっておられましたね。

島村: その意味では、取組のプロセス自体を「幸せ」にやっていくことが大事ですね。

今日は、こうやってお話しできて、本当に幸せな時間でした。ありがとうございました。

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